広告大手・電通の新入社員の女性が過労自殺した問題をきっかけに、長時間労働や加重な業務の是正へ関心が高まっている。11月は、過労死防止啓発月間でもある。過労死につながる長時間労働の是正に向けて、企業側の意識改革はもちろん、私たち自身の働き方のありようも見つめ直したい。

 政府の「過労死等防止対策白書」によると、昨年度過重な業務による脳や心臓の疾患で死亡し、労災認定されたのは96件で、自殺や自殺未遂は93件だった。「過労死」の労災認定の目安とされる月80時間を超えて残業する正社員がいる企業は23%、5社に1社の割合に上り、100時間超も12%あった。長時間労働の解消が依然進まない現状が、あらためて浮き彫りになった。

 2014年施行の「過労死等防止対策推進法」は、過労死や過労自殺を「社会にとって大きな損失」と位置付け、防止策の実施を「国の責務」と明記した。しかし、長時間労働の制限や、雇用主への罰則規定など、企業活動を直接制限するものではなく、過労死や長時間労働の改善には、必ずしもつながっていない。

 白書は長時間労働の背景として、業務量の多さや人手不足に加え、消費者や取引先からの「不規則な要望」を挙げている。取引先との関係や業界の商習慣など、企業単位での是正には限界もうかがえる。長時間労働抑制が進まない背景には、労使合意の上限を超えた残業に行政のチェックが行き届かない構造上の問題があるとみられる。過労死ゼロの実現へ、企業側の意識の改革が求められる。

 安倍政権が進める「働き方改革」の議論では、長時間労働の抑制が主要議題になっている。労使合意があれば事実上、残業が無制限になるとの批判の強い労働基準法の労使協定(三六協定)について、上限時間の設定や超過時の罰則強化が焦点となる。国が実効性のある対策を取ることが急務だ。

 一方、足元に目を転じると、佐賀県の年間総実労働時間は1879時間(15年)で、全国平均の1784時間を95時間も上回っている。その要因の一つとして年次有給休暇の取得率の低さがある。全国平均を下回る40%前後で推移しており、20年までの政府目標の70%を大きく下回っている。

 佐賀労働局が県内の労働者を対象にしたアンケートでは、「有給休暇の取得にためらいを感じる」との回答が69%を占め、その理由に48%が「みんなに迷惑がかかると感じるから」と答えている。

 同僚が残業しているなか、「自分だけ帰るのは気が引ける」と、長時間勤務に付き合ってしまうこともあるだろう。上司は率先して残業を抑え、部下を積極的に帰らせるなど、不要な長時間労働をしない雰囲気をつくりたい。有給休暇の積極的な取得や「付き合い残業」をしないことなど、働く側の意識改革も必要だ。

 長時間労働は心身を蝕むだけではなく、育児や介護との両立を阻み、女性の社会進出も妨げる。社会全体にとって損失は大きい。働き過ぎで命を落とすことのない、働く人を大事にする社会の実現が求められる。企業や働く人自身が意識改革に取り組むとともに、働き方改革を進める国が、効果的な対策を取れるのか注視したい。(田栗祐司)

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