北方領土問題は動くのか。安倍晋三首相が、平和条約締結を巡ってプーチン・ロシア大統領との会談に臨んだ。

 12月の来日に向けた最後のトップ会談だった。両氏の会談は15回目で、今年だけでも3回を数える。約1時間10分に及んだ会談のうち、通訳を残して2人だけで話し合う時間も35分あり、かなり突っ込んだやりとりがあったとみられる。

 会談後、安倍首相は「解決への道筋が見えてはいるが、簡単ではない。着実に一歩一歩前進していきたい」と述べた。9月の首脳会談後は「手応えを強く感じた」と口にしていただけに、トーンダウンした印象である。

 ロシア側は今回も、北方領土での「共同経済活動」を持ち出してきたようだ。ロシアの主権の下、ロシアの法律に従って日本側がインフラ整備などに投資するという提案で、日本としては到底受け入れ難い。

 このアイデアは過去にも協議されており、目新しさはない。日本側の反応を分かっていながら、この段階で共同経済活動を交渉カードに使おうとする姿勢からは、できれば議論を先延ばししたい、あるいは逆戻りさせたいという意図さえにじむ。

 1956年の日ソ共同宣言は、平和条約を結んだ後、色丹島と歯舞群島の引き渡しを明記している。ところが、プーチン氏は会見で、「誰の主権の下に置かれ、どのような条件で返還するか書かれていない」と持論を述べ、主権の引き渡しに慎重な考えを強調してみせた。

 安倍首相はこれまで、極東の産業振興やエネルギー開発、快適・清潔な都市開発など8項目の経済協力プランをバネに、領土交渉を動かそうとしてきた。ところが、平和条約交渉の高官級協議は8月以降、開かれておらず、次回開催の見込みさえ立っていない。

 ここにきて、新たな不確定要素も出てきた。トランプ氏の米大統領選勝利である。

 トランプ氏は選挙期間中、プーチン氏を「偉大な指導者」と呼び、米ロ関係改善への意欲を示してきた。ロシアがこれまで日本との領土交渉に応じる姿勢を見せてきた背景には、米欧による経済制裁に苦しみ、日本から経済支援を引き出したいという思惑があった。対米関係が雪解けする兆しを見て取り、日本との領土交渉は様子見に転じた可能性もある。

 一方、日本にとっても、北方領土が返還された場合に日米安全保障条約の適用対象とするかどうかが課題になってくる。現時点で米側の出方を見極めるのは難しい。

 最悪のシナリオは、経済支援だけが先行し、領土問題は置き去りにされるという展開である。日本政府としては12月の訪日で華々しい成果を挙げたいだろうが、焦って妥協を重ねてはならない。

 国民は冷静に見守っている。先月、共同通信が実施した世論調査でも、領土問題が解決に向かうかを聞くと、「期待しない」が58・6%で、「期待する」の38・2%を大きく上回った。

 どのような形の解決を目指すのか。4島一括返還か、歯舞、色丹の2島先行返還か、それとも別の選択肢か-。対ロ交渉と並行して、国民的な議論も進めておきたい。(古賀史生)

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