太良高校の学校説明会で登壇した中尾優理さん=佐賀市天神のアバンセ

 発達障害のある生徒や不登校経験者を受け入れている佐賀県立太良高校(藤津郡太良町)の全県募集枠の1期生が、発達障害の研究者を目指している。武雄市の中尾優理さん(23)で、自らもコミュニケーションをとるのを苦手としていて、聴覚や嗅覚が過敏なアスペルガー症候群の特性があるが、猛勉強の末に突破した英国・ヨーク大学への留学に向けて地道に準備を進めている。

 太良高への進学希望者を対象に、9日に佐賀市で開かれた説明会。中尾さんは卒業生として、中学生や保護者ら約50人に語り掛けた。「先生たちができないと決めつけずにいてくれたから、夢を見つけられた」

 中尾さんは別の高校で不登校を経験し、2012年、2年次から太良高に編入した。周囲の人がすんなりできることでも時間がかかるときがある。「そんな自分を太良高の先生は待ってくれた」と振り返った。

 「研究者になりたい」と思ったのはこのころ。自分のように、生きづらさを抱える子どもの居場所をつくる手伝いをしたい。体験を生かして自閉症を中心に研究し、多様性を認める教育システムを構築したい-。そう思うようになった。

 学校推薦で東京都内の大学を受験し、志望書類に思いをつづった。書類審査に通り、学究への思いをぶつけようと挑んだ面接では「1人暮らしはできますか」「大講堂で授業を受けることは可能ですか」。想像とは全く異なる質問が続き、合格には至らなかった。

 意気消沈したが、不登校時代に読んだアイルランドの大学教授が書いた心理学の著書を思い出し、留学を志す。目標は、自閉症や発達障害を研究する英国の大学への進学。まずは英語を身に着けようと14年5月、語学留学のためカナダに単身で渡った。

 ホストファミリーは、居心地のいい家庭とは程遠かった。滞在先の変更や滞在費用の返還交渉を余儀なくされた。そうして辞書を片手に孤軍奮闘するうちに、自然と英語を自分のものにした。「独力でトラブルに対処する経験で度胸が身に着いた」と振り返る。

 中尾さんは相手の言葉の裏を読むのが苦手で、思ったことをそのまま口にしてしまう。カナダではそれが疎まれることなく、むしろ「なぜ他の日本人は思ったことを口にしないの?」と尋ねられた。「場所や人が変われば、人を見る目や、ものさしが変わる」-。そのことを実感し、中尾さんは約1年間の語学留学中、多くの友人に恵まれた。

 帰国して10カ月後の16年2月にアイルランドへ渡り語学に磨きをかけ、7月に英国に移った。猛勉強をして、17年7月にはヨーク大学の教育心理学部に合格した。現在は留学費用を稼ぐためにアルバイトをしている。今年9月に入学できたが、自力で学費を捻出しようと先送りした。

 合間を縫って5月には趣味のイラストの個展を開いた。会場を訪れた高齢の男性は、発達障害の孫を巡る悩みを打ち明けた。中尾さんが自身の歩みを話すと安心した様子で、中尾さんは喜んだ。「私の経験が、似た悩みを持つ誰かのヒントになれば」と話す。

 太良高時代の恩師とは連絡を取っている。「今は同じ道を先に行く先輩」と話す中尾さん。回り道をしても、前に進んでいる手応えがある。

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