佐賀地裁の裁判員裁判初公判で「黙秘します」と述べる於保照義被告(イラスト・円田浩二)

 佐賀市久保泉町川久保の残土置き場の土中から男女2人の遺体が見つかった事件で、生き埋めにして殺害したとして殺人罪などに問われた無職於保照義被告(68)=神埼市神埼町=の裁判員裁判は、全日程の半分となる第8回公判まで終わった。争点の一つである2人の死因に関して、土中に埋められたことによる窒息死を主張する検察側に対し、弁護側は埋められる前に死亡した可能性にも言及した。両者の主張は真っ向から対立する。

 争点は、犯罪が絡んだ事案なのか偶発的な事故なのかという事件性の有無、そして被告が犯人なのかという犯人性に絞られており、動機の有無、死因を含めた殺害方法などを巡って検察、弁護側が争う。

 傍聴席が埋まった4日の初公判。「黙秘します」。於保被告はこう言い切り、捜査段階からの黙秘を続けた。供述を含め直接証拠がないため、埋まっていた遺体と軽乗用車の状態や、被告の事件前後の行動などを示す状況証拠の積み上げで立証できるかが鍵となる。

 関係者によると、検察、弁護側双方の証人は計約50人で、証拠となる各種調書や報告書を作成した捜査関係者が大半を占める。これまで26人が証言した。

 このうち男女の死因を巡っては、司法解剖をした佐賀大の小山宏義准教授と、弁護側が請求した法医学専門の本田克也・筑波大教授が異なる見解を示した。

 小山准教授は、2人の遺体を「腐敗が進み死因は特定できなかった」とした。その上で土中から発見された状況を加味し、男性については土砂に圧迫されて窒息死した可能性に言及。一方、本田教授は男性の死因を肋骨(ろっこつ)多発骨折とし、呼吸不全や外傷性ショックに至って死亡したと反論、「土砂での骨折はありえない」と断言した。

 女性の遺体は土中の車内で体を折り曲げた状態で発見されており、小山准教授は車内で呼吸不全に陥った可能性を指摘。本田教授は「非常に不自然な姿勢。死体硬直が起きてから遺棄された可能性がある」と疑問視した。

 死因特定に関する考えについても両者は対立。「遺体の状況だけでなく周囲の状況も死因推定の材料にできる」との検察側と、「遺体の状況のみで死因を引き出す」とする弁護側では決定的に立場が異なる。こうした違いをどう評価し、認定するかが注目される。

 検察、弁護側はこのほか犯行に使われたとする油圧ショベルと軽乗用車の損傷の関連性などでも攻防を繰り広げた。

 今後は、被告が社長を務めていた会社の当時の従業員らも証人として出廷。被告の指示で油圧ショベル先端のバケット交換や、現場の穴掘りをした経緯が語られるとみられ、犯行の計画性にも焦点が当てられる。論告求刑と最終弁論がある第16回公判は7月17日、判決言い渡しは8月6日に予定されている。

 メモ

 2015年7月に残土置き場の土中から在日韓国人で山口県下関市の会社経営羅時燦(ラ・ジサン)さん=当時(76)=と知人で同市の松代智恵さん=当時(48)=の遺体が発見、佐賀地検が15年10月、於保照義被告を殺人罪で起訴した。検察側は、於保被告が14年8月15日、2人を掘られた深さ約5メートルの穴に落とし、油圧ショベルで上から土砂を掛けるなどして窒息死させたと主張している。

このエントリーをはてなブックマークに追加