通信ネットワーク「防衛情報通信基盤」の巨大鉄塔=東京・市谷の防衛省

 陸上自衛隊を狙った高度なサイバー攻撃が明らかになった。世界では、陸、海、空、宇宙に続く「第五の戦場」とも呼ばれるサイバー空間を舞台にした攻防が激化している。今回の攻撃者が誰かは特定されていないが、強固なはずの自衛隊ネットワークに侵入された事実は重い。専門家は「相手を入念に調べ上げた上でのかなり高度な手法だ」と話した。【共同】

 多くの国の軍隊はサイバー空間での防衛能力を高めるだけでなく、攻撃能力も開発しているとされる。各国では政府機関や軍隊の情報ネットワークに対する攻撃が多発しており、「日本も例外ではない」(自衛隊幹部)ことをあらためて印象付けた。

 これまでに国家関与が疑われたケースは数多い。ウクライナでは昨年12月、サイバー攻撃によって大規模な停電が起きた。同国と対立するロシアが関与したとの見方が強い。

 今年の米大統領選では、民主党候補ヒラリー・クリントン氏の陣営幹部らのメールを内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した。米政府はロシア政府が選挙介入するため、メールをハッキングするよう指示したと非難。これに対してロシアが疑惑を重ねて否定する事態に発展した。

 イランでは2009~10年ごろ、外部ネットワークとは隔離されているはずの核燃料施設のシステムがコンピューターウイルスに感染した。ウイルスはUSBメモリーで持ち込まれたとされる。米国とイスラエルが関与したとみられており、設備が機能停止に陥った。韓国では13年に金融機関や放送局のシステムがダウンし、韓国政府は北朝鮮によるサイバー攻撃と主張した。

 ただサイバー攻撃では決定的な証拠が得られないケースがほとんどで、実際に誰がやったのかを特定するのは困難だ。米連邦大陪審は14年、米企業の情報を盗むスパイ行為をしたとして中国軍当局者5人を起訴した。中国側は「米国が捏造(ねつぞう)した」などと抗議した。

 日本政府も危機感を強めており、手をこまねいていたわけではない。防衛省は14年3月、サイバー攻撃への対処能力を高めるため「サイバー防衛隊」を創設。24時間態勢で通信状況を監視しているほか、高度な分析装置を導入してきた。

 しかし、安全だとみていたシステムに穴があった。防衛省では同じパソコンで、内部情報を扱う「部内系システム」と、インターネットにつながる「部外系システム」を切り替えて使うが、システムが分離されていても、パソコン内の記憶装置に一時保存される情報は共有されるという。今回はこの弱点が突かれ、何らかの情報が流出した可能性が指摘される。

 サイバーセキュリティーの専門家は「攻撃者は防衛省や自衛隊、防衛大などのシステムを徹底的に調査し、どういう攻撃手法を採用するかなど準備に相当な時間を費やしたのではないか」と推測する。攻撃が今後もやむことはなく、早急な対応が必要となっている。

■識者談話 国家防衛への深刻な脅威

 サイバー攻撃の国際事情に詳しい慶応大の土屋大洋教授(国際関係論)の話

 重要な機密が外部に漏れた可能性もあり、国家の防衛を脅かす極めて深刻な問題だ。2008年に米軍のネットワークがサイバー攻撃を受けて以降、日本の防衛省・自衛隊も警戒を強め、侵入を防ぐ態勢を構築してきた。それでも侵入されたとすれば、国家の関与を疑わざるを得ず、中国やロシア、北朝鮮といった日常的に日本の軍事的情報を必要とする国が想定される。サイバー攻撃は形を変えたスパイ戦争であり、自衛隊関係者には日常的にマルウエア(悪意のあるソフト)が世界中から送りつけられている。100パーセント防ぐのは容易ではないが、万が一の流出に備えて内部データを暗号化するなど、二重三重の対策が必要だ。

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