2017年の春闘が動き出した。アベノミクスを再加速させたい安倍晋三首相が「少なくとも今年並みの水準の賃上げを期待したい」と口火を切り、政府主導の「官製春闘」が4年目を迎える。

 「働き方改革実現会議」の場で、経団連の榊原定征会長らと向き合った安倍首相は今年並みの2%以上の賃上げとともに、基本給のベースアップ(ベア)も求めた。これに対して、榊原会長は賃上げには前向きな姿勢を示したものの、ベアは「(会員企業に)強く要請する状況ではない」と慎重だった。

 そもそも賃金交渉は、労使が個別に進めるべきで、政府が介入する「官製春闘」は健全な状態ではない。労働組合の組織率が低下し、非正規雇用が広がる実態を考えれば、働く人の立場が相対的に弱まっているという事情があるにせよ、政府がいつまでも春闘を主導するのは好ましくない。

 安倍首相が賃上げに前のめりなのは、アベノミクスがいよいよ行き詰まりを見せているからだ。大規模な金融緩和や財政出動を続けてきたにもかかわらず、公約のデフレ脱却は果たせないまま。有効求人倍率の改善にしても、非正規雇用が中心で、暮らし向きが良くなったと国民が実感するまでには至っていない。

 この状況を打開するために、賃上げで個人消費を刺激し、経済の好循環を生み出したいというシナリオのようだが、果たして政府の思惑通りに進むだろうか。

 気がかりは、春闘に大きな影響力を持つ自動車業界の業績低迷だ。直近は為替相場が円安にふれているが、今年は年明けから円高基調が続き、自動車各社の収益を圧迫してきた。今年9月の中間連結決算では、自動車大手7社すべてが減収になっている。通期でも減益や赤字見込みが目立ち、楽観はできない。

 経済の好循環を呼び込むに当たって、最大のネックは国民の多くが将来の不安をぬぐえずにいるという現状だ。これまで3回の「官製春闘」は、平均2%台の賃上げを実現してきた。ところが、給料が上がった分が消費にはほとんど向かっていない。

 背景には、雇用環境の著しい劣化がある。今や、非正規雇用の労働者が2千万人を超え、全体の4割を占めている。その多くは年収200万円の水準にさえ届いていない。きちんと働いているにもかかわらず、いつまでも貧困から抜け出せない「ワーキングプア」層が広がっているわけだ。少しばかり賃金が上がっても、将来への不安から貯蓄に回しておきたいと考えるのは当然である。

 日本経済がいつまでもデフレから抜け出せないのも、根は同じではないか。当然ながら労働者はまた消費者でもあり、節約志向、低価格志向が根強いのは、やはり将来への不安が大きいからだ。

 県内は有効求人倍率だけを見れば、昨年末から1倍台を保っているが、中小零細企業中心の産業構造のため、雇用環境はさらに厳しい。中央との「格差」をどう埋めていくかがテーマになるだろう。

 いかに国民の将来不安を取り除くか。官製春闘で企業側に切り込んだ以上、政府もまた、社会保障制度の充実など、国民が安心できる具体的な施策を急いでもらいたい。(古賀史生)

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