社会の高齢化に伴い、「聞こえ」の問題が広がりつつある。高齢による難聴の人は国内1500万人に上ると推定され、今後も大幅な増加が見込まれる。聴覚障害はハンディが周囲から分かりづらいため、認知度の高まりやバリアフリー対策が立ち遅れてきた面がある。社会全体が配慮の意識を持つことで、聴覚障害者を孤立させない環境づくりを進めたい。

 聴覚障害は大きく三つに分類される。生まれつきの失聴者、音声言語を獲得後、何らかの原因で聞こえなくなった中途失聴者、聞こえにくいが、まだ聴力が残っている難聴者が挙げられる。聞こえの機能は年を重ねるとともに低下するため、加齢性の難聴者の増加が見込まれる。軽度も含めた高齢難聴者の割合は65歳以上で急激に増え、男性で40%、女性で30%。80歳以上では男性80%、女性70%に上るというデータがある。

 聴覚障害は本人が周囲に打ち明けない限り、見た目では分かりづらい特徴がある。最近、佐賀新聞のひろば欄に寄せられた投稿によると、聴覚障害者は「会話の内容が聞き取れなくても、分かるふりをしてしまう」「みんなが笑ったときに、分からないけど笑っておく」ことでその場をやり過ごし、そうした自分に嫌気が差してしまうのだという。

 聞こえが悪いと気付くと、周囲は大きな声で話しかけるものだが、これも解決にはならない。大声で言われても「大きな音で響くだけで、内容が聞き取れない」といい、「大きな声で言っても分からないなら、認知症じゃないか」という誤解までも生む。聴覚障害者は次第に周囲とのコミュニケーションを敬遠し、自信や楽しみを失っていく。極端な孤立化、孤独化につながる恐れもある。

 県聴覚障害者サポートセンター(佐賀市)は「寿命が延びて100歳まで生きようかという時代になった。これに合わせて必要な対応が出てきた」という。センターでは、専用の機器を使った聞こえの測定検査を受け付けている。通常の聴力検査よりも、より多くの音域で調べるため、聞き取りにくい音の傾向が分かる。測定結果を基にカウンセリングするので、本人や家族は聞こえにくさを補う方法を知り、日常生活のストレスを減らすことができる。ただ、測定・相談の利用者はまだ限定的で、家族や本人が積極的に利用するまでには至っていないようだ。

 聴覚障害者向けの技術革新は進み、スマホを使って会話や会議の内容が文字情報へ翻訳されるアプリもある。機材を使わなくても、唇の動きを見せながら正面から話すだけでも聞こえ方は随分改善される。また、センターでは補聴器利用者の体験談が聞けるセミナーや、聴覚障害者と接する機会が多い介護職などを対象にしたサポーター講座(次回6月9日)も定期的に開いている。私たちが少しの工夫や配慮をし、行動することで改善につながることは多くある。

 運行の遅れを知らせる列車内のアナウンス、音声による展示物説明、マスクをしたままの医師から聞く治療説明…。私たちの意識が低かったばっかりに、これまで聴覚障害者に聞こえていなかった情報はなかっただろうか。より住みやすい社会づくりのため、まずは一人一人が配慮の意識を持つことから始めたい。(樋渡光憲)

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