浮世絵の風合いを表現した絵柄に日常の「あるあるネタ」を書き添えた独特な作品を手掛け、本紙でも毎週月曜日にイラストを連載しているイラストレーターの山田全自動さん(35)=鹿島市出身、福岡市在住=。インスタグラムではフォロワー(閲覧者)が20万人を超え、東京や大阪のみならず海外でも個展を開くなど、国内外で活躍の場を広げる山田全自動さんの素顔に迫った。

 

◆絵や音楽に熱中した青春時代

 

 鹿島市で生まれ育ち、小さい頃から絵を描くのが好きだった。特に好きなアニメをまねて描き、中学校では先生の似顔絵や自作の漫画を描いて友達に見せた。「美術は好きだったけど、成績がよかったかと言われると微妙」と苦笑い。だが、日々の出来事を書いて毎日提出する日誌には、友達は文章でつづるのに対し、漫画で描いた。「先生に褒めてもらうのがうれしくて、気合入れて描いていた」と笑顔で話した。
 鹿島高校に進学すると、各クラスの先生の似顔絵は描いたが、バンドに熱中した。「モテるかなと。絵ではモテないと思って、ギターの方を熱心にしていた」。自分たちで企画して、鹿島市の市民会館や佐賀市のライブハウスでライブを開き精力的に活動した。しかし「あんまりモテなかった。(ギターが弾ける)それだけじゃないんだな」と笑い話として語ってくれた。


◆アパレル業界から転職

 大阪の近畿大学経済学部に進学。当時はインターネットが定着し始めた頃で、大学ではコンピューター系の授業を選び、ホームページなどを作っていた。
 大学卒業後は福岡でアパレル関連の会社に就職。3年ほど働き「みんなは楽しそうにやっているのに、僕だけ異常にきつくて。向いてないんじゃないかと気づいた」。「インターネットだったらできるような気がする」とIT系のベンチャー企業に転職した。「(転職先は)向いていたのか楽しかった」と晴れやかな表情を浮かべた。


◆独立し、イラスト本格的に

 

 個人でも仕事をやってみようと、会社に許可をもらい個人事業と会社との両立を始めた。26歳の時、ホームページのデザインなどで独り立ちできるようになって、ウェブデザインの会社として独立。しかし、ウェブデザイナーが増えて競争は激化していた。「差別化して、〝自分にしかできないこと〟をやらないと」と考え、個性が出るイラストを本格的に描き始めた。
 「1日1個、作品を描く」とノルマを課して、人物や風景をSNSに投稿した。手塚治虫さんが描く漫画のような絵柄や劇画調のイラストなど、さまざまな絵柄を試した。その中でしっくり来たのが浮世絵だった。回りの人も「面白いんじゃないか」と評価してくれた。

◆妻の一言が運命を左右

 転職してからは順調に見えるが、イラストをSNSに投稿し始めた頃は反響がなかったと話す。「仕事につながっているかというと微妙で、(投稿を)止めた時期もあった」と振り返る。
 「インスタグラムにイラストをアップしている人がいるから、上げてみない?」。妻のこの一言が運命を変えた。インスタグラムに上げると徐々に評判になり、2016年にはヤフーニュースに取り上げられ、フォロワーは20万人を超えた。「まったく実感がない。やっていることは最初から変わっていないから」と話す山田さんは、「(評判になっても)自信がない。いつも『これでどうでしょうか?』という気持ちで投稿している」と心の内を語った。


◆手は表情より物を言う

 

 「準備と片付けがすごく簡単で効率的だから」とタブレット端末と専用のペンで描く山田さん。描く時は「手」や「着物の柄」を工夫している。疑問を浮かべる人の着物はうずまき柄に、とぼけている人はドット柄にするなど、人の気持ちを表現する。
 「手は表情よりも物を言う。顔じゃなくて手で何を言いたいかを伝える」と、細かい指の動きも描く。「絵柄がシンプルな分、少ない情報量の中でいろいろ表現する」と語った。
 人物一人にかける制作時間は約15分で、文の言い回しや表情を考えて描く。題材は生活の中で周囲の人を観察し、面白いと思った出来事をスマートフォンのメモ帳に書きとめる。時には妻の言動も参考にし、作品を見てもらうこともある。「本音を言ってくれる人って大事」と目を細めた。


◆多彩な趣味

 

 自宅には数種類のギターが並ぶ。ビートルズが好きで部屋の奥から持ってきたのはインドの民族楽器「シタール」。シタールを使うビートルズの曲を演奏したくて約5年前、インドから取り寄せた。「チューニングしていないけど」と言いながらも、19本の弦をはじいて不思議な音色を聞かせてくれた。
 趣味は多彩。昔の物に興味があり、歴史や散歩、ポストカード集めなど。イラストレーターの傍ら、「Y氏(山田孝之)」の名で福岡の観光スポットや路上の歴史などを紹介するブログ「Y氏は暇人」も書いており、本も出版する。
 作品に行き詰まった時は、散歩でリフレッシュ。一度外に出ると2~3時間は歩く。散歩は気分転換するだけでなく、道ばたで石碑などを見つけるとブログや本の仕事につながり、甲冑(かっちゅう)やかぶと、昔の絵などはイラストを描く時に参考になる。それぞれの趣味がつながり、「お金がかからず一石〝三鳥〟の趣味」とほくそ笑む。


◆佐賀で個展を

 高校卒業後は佐賀とのつながりが薄くなっていたが昨年10月、嬉野市の肥前夢街道に「山田全自動館」を開設できた。1月には佐賀城本丸歴史館(佐賀市)でライブペインティングを行うなど、徐々に佐賀での仕事が増えてきた。山田さんは、「(佐賀との)つながりができるとは思っていなかったのでうれしい。活動を続けていてよかった」と笑顔を見せた。
 今後は「(活動が)形になっていないので(佐賀の)焼き物や掛け軸、絵巻物などの〝物〟にしたい」と意気込む。「佐賀ではちゃんと個展をやったことがないので、地元鹿島市の酒蔵通りとかでやってみたい」と目を輝かせた。


◆クリエイターを目指すみなさんへ

 しつこく続けること。途中で止めたこともあるが、再開してみて突然、見てもらえるようになったから。止めた時が失敗だから、止めなければ失敗じゃない。

 

 

=プロフィール= やまだぜんじどう

 ウェブデザイン会社「クラウドナイン」代表で、イラストレーターやウェブデザイナーとして働く傍ら、iPadで描くデジタル浮世絵師としても活動している。人気ブログ「Y氏は暇人」の管理人でもあり、本を出版するなど多方面で活躍する。鹿島市出身、福岡市在住。本名は山田孝之。

 

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