九州新幹線長崎ルートが再び“迷走”を始めようとしている。前提となっていたフリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)を事実上断念し、フル規格化を求める声が起きたためだ。これまでの経緯を考えると、フル規格が本当に必要なのか、原点に戻って議論する必要がある。

 長崎ルートは、他の整備新幹線とは様相が異なる。博多―新鳥栖間はフル規格の鹿児島ルートを、そして新鳥栖―武雄温泉間は在来線を利用。武雄温泉―長崎間はフル規格で新たに整備する。在来線とフル規格ではレール幅が違うため、車輪の間隔を変えて両方を走行できるFGTの導入が前提条件だった。

 取材に携わっていた2007年当時、「未完の技術」だったFGTに対する疑問の声は少なく、焦点となっていたのは新幹線整備後、JR九州から経営分離される並行在来線沿線自治体の同意だった。長崎ルートは、JR長崎線沿線の鹿島市と江北町が一貫して反対し、出口が見えない迷路に入り込んでいた。その状況を打破したのは07年12月、JR九州が新幹線開業後も長崎線を引き続き経営するという方針を提示したこと。「経営分離ではなくなるため、沿線自治体の同意は不要」という論理で前進。さらに、新幹線開通後の長崎線存続の維持管理費について、長崎県が「応分の負担」を示すなど、さまざまな方面から手が打たれ、実現にこぎつけた。

 当時を振り返ると、「佐賀県の効果は小さいかもしれないが、将来を見据え、全国の高速交通体系につながっておくべき」という考え方は理解できた。何より、「どうしても整備したい」という推進派の思いが強かった。工費を抑え、山陽新幹線に直接乗り入れられるFGTが推進派の説得材料の一つになっていたのは否めない。

 それが、08年の事業認可から10年後の今年、「FGTは山陽新幹線に乗り入れられない」とはどういうことだろう。手のひらを返したように当時の説得材料を否定されたのでは、フル規格に向けての、まるで“後出しじゃんけん”である。到底納得できない。

 それに、FGTは、このままあきらめるには惜しい技術だ。実用化されれば、東海道新幹線や山陽新幹線という交通の大動脈から地方へ枝葉が伸びやすくなる。安全性が最優先なのは言うまでもないが、研究は続けてほしい。

 さらに言えば、近い将来、電気自動車による自動運転の時代がやってくるだろう。10年後、電気で走る自動運転の大型車が旅行や物流の主流となり、フル規格の新幹線は必要性が薄れ、“無駄な投資”になっているかもしれない。

 限りある財源。一度立ち止まり、近未来の交通体系がどうなるかの予測も踏まえ、フル規格の長崎ルートが本当に必要なのかを考えることが大事だ。「佐賀県の負担が大きいから、到底受け入れられない」というだけでは、「負担が少なければOKなのか」という風にもとられかねない。

 ただ、「長崎県にとって、どうしてもフル規格が必要」という声があれば、隣県として無視はできないだろう。将来に禍根を残さぬよう、まずは県民レベルで佐賀、長崎両県の対話を始めたい。(中島義彦)

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