■多様な考え、意見伝えて

 ノーベル賞授賞式に合わせてイシグロ氏の記事が多く掲載され、10日付は「有明抄」「ろんだん佐賀」「デスクノート」でも同時の言及がある程であった。式に先立って行われた講演が要約されたが(9日付)、唐突な印象の1カ所を全文にあたることによって意味を理解することができた。紙面の制約のもとでの要約の苦労を推察する。
 講演はイシグロ氏の小説を思わせる静(せい)謐(ひつ)な文章になっており、文学的な視点から講演を論じた翻訳家・鴻巣友季子さんの「寄稿」(17日付)に共感を覚えた。晩(ばん)餐(さん)会スピーチも小説を読むかのようであったが、同時に強いメッセージを含んでおり、そのことが多く記事として扱われた理由の一つであろう。
 また、ICANの平和賞受賞にも通ずるところが多くあった。サーロー節子さんの講演は、正確を期してか、全文が対訳つきの英文で掲載された(12日付)。一方、宇宙の成立の解明につながる新しい天文学の幕開けとなる重力波の発見という物理学賞を含め、他の受賞についての記述がなかったことに少し違和感を覚えた。
 イシグロ氏の講演にも通ずるが、分断へと向かう世界の状況に対して多様性を受け入れる努力がますます必要になるであろう。「共生のかたち」(5-10日付)では、佐賀在留の外国人が抱えるさまざまな問題を気づかせ、「論説」(18日付)では外国人技能実習制度の改善が必須であると指摘している。「共生のかたち」をさまざまな課題へ広げてほしい。
 対立するテーマについて、理解を深めるには多様な考えを知ることが欠かせない。「奏論」(26日付)で熊本市議の乳児同伴について、3人の女性の意見が掲載されたが、男性や事務局サイドの意見もあっても良いと感じた。35年ほど前、イタリアの大学に滞在している時に、研究者の一人が連れてきた乳児がいる研究室で何事もないかのように議論や研究が行われているのを見て、そのおおらかな雰囲気を好ましく思ったことを思い出した。多くのテーマについて「奏論」を展開することを希望する。
 さまざまな考えが示されたという意味では「ものづくり不正」があった。「視標」(3、4日付)ではノンフィクション作家と経営者の、「語る」(26、27日付)では研究者の考えが示された。不正が生じた理由が論じられる中で、検査の仕組み自体がものづくりの進化に伴っていないという作家の指摘を興味深く思った。この観点から問題を掘り下げる記事を期待したい。
 3度の紙面批評を担当して、科学に関する記事が少ないという印象を持った。紙面の制約によるものと推測されるが、一方で、年配の読者を考慮してか行間に工夫がしてあり、読みやすい。地域の話題を豊富に取り上げる使命と読みやすさを追求する中での記事の選択の苦労は計り知れないと想像する。=12月分=(よねやま・ひろし、佐賀市)

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