年金制度改革法案が衆院を通過し、今国会で成立する可能性が強まった。物価や賃金の変動、少子高齢化の進行などを考慮し、年金の減額をこれまでよりも柔軟に対応できる制度改正で、与党は年金制度を長く維持するために必要と訴える。ただ、物価が上昇しても支給額が減るケースがあり、反対意見も多い。参院では、さらに議論を深める必要がある。

 法案の呼び方が与野党で違うようだ。自民党は「将来年金確保法案」と若い世代のための改正であることを強調し、党のホームページで解説コーナーを設ける力の入れようだが、野党の民進党などは「年金カット法案」と強く批判する。どちらが実態に近いのか。

 日本の公的年金は、現役時代に積み立てた保険料が老後に運用益を上乗せして戻る民間の年金とは異なる。現役世代が高齢者に「仕送り」して支えることで、自分たちも将来、次の世代に支えてもらうことを繰り返す社会的な扶養制度だ。少子高齢化が進み、高齢者を支える現役世代の比率が減っていく中で、将来的な行き詰まりが懸念されている。

 現行制度でも支給額抑制の仕組みはある。ただ、物価を重視しており、保険料を支払う現役世代の賃金が下がっても物価が上がれば、年金支給額は据え置かれる。この仕組みを続ければ、将来の年金財政に影響が出るため、今回の法案では賃金が下がれば、年金も下がることをルール化している。

 2060年には65歳以上の高齢化率が4割まで上昇し、ほぼ現役世代1人で高齢者1人を支える時代が来るという人口推計もある。平均寿命の延びなども考慮して支給額を抑制する「マクロ経済スライド」の強化も盛り込んでおり、自民党は「将来世代の年金水準を守るための改定だ」と訴える。

 痛みもある。物価が上昇した上に年金まで下がれば、高齢者の生活は二重のマイナスになる。そもそも、多くの高齢者が年金収入から介護保険料や医療費も捻出しているが、満額支給でも月6万5千円の国民年金で生活ができるのか。さらに年金が減ることへの反発は世論調査でも出ており、「反対」は58%(共同通信社)だ。

 高齢者世帯の生活保護が増え、貧困問題が深刻化している。与党は低所得者対策として、最大で年6万円の福祉給付金も提案に盛り込んでいる。まず支給抑制により、どれほど年金が減る可能性があるのか、具体的な数字を示さないと議論はできない。

 年金は将来的には減額は避けられず、世代間対立を生みやすい問題でもある。ただ、非正規雇用が常態化する中、今の生活がやっとで老後の蓄えが困難な家庭は少なくない。若い世代の未来のために小手先の議論ではなく、年金で最低限の生活を保障する制度設計こそ必要ではないのか。

 法案は3月に国会に提出された後、夏の参院選前は十分な審議がなされなかったが、年末年始の衆院解散の可能性が低くなる中で一気に採決の流れが出てきた。国政選挙への影響を回避するスケジュールで、来夏の都議選を重視する公明党への配慮もあるようだ。

 本来なら人口減少時代に社会保障制度をどう維持するかが、国民に問うべき最重要課題ではないのか。参院では国民の不安に答える議論を求めたい。(日高勉)

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