杵島郡大町町で町立病院を民間の病院に経営移譲する話が持ち上がっている。水川一哉町長は12月定例町議会での議論を経て、移譲の是非について一定の方向を決める方針だ。移譲に反対する町民でつくる「町立病院の存続を求める会」は、町に約5千人分の存続要求署名を提出した。

 民営化協議は新武雄病院(武雄市)が町に経営移譲を打診したことで始まった。指定管理者制度を使って別の病院に運営委託することなども検討した。

 町は民営化を検討する理由として①建物の老朽化②患者数減少など運営の悪化③医療を巡る今後の情勢-の三つを挙げる。

 建物は築40年で耐用年数を超え耐震基準も満たしていない。スプリンクラーもなく、建て替えが課題だが、基金などがなく困難とする。2015年度の1日平均の外来患者数は92人で、ピーク時から半減。60床の病床利用率は13年度の86・8%をピークに減少傾向で、今年4~9月は64・6%まで落ち込んでいる。本年度収支見通しは8千万円の赤字とみる。

 こうした現状の厳しさに加え、総務省の「新公立病院ガイドライン」などをもとに今後は交付税の減少や病床数削減も危惧されると分析。「廃院を避けるため、入院施設のない診療所を残すことを条件に移譲を検討する」とする。

 町民には賛否の声がある。2回の町民説明会では「民間は収支が悪化すれば撤退する」という懸念の一方、「赤字の上、建て替え資金が厳しいのなら移譲はやむを得ない」という声も上がった。ベッド数を40床程度に減らし、耐震基準を満たす一部施設を生かして増築するという提案もあった。「存続を求める会」の署名は町内外から5284人分。「町民の生命、杵藤地区の医療を守るためにも病院存続を」と訴えている。

 議論は町議会で本格化するが、協議のためにもう少し情報が必要だ。少なくとも①病院存続がどの程度難しいのか②移譲の条件となる診療所の診察科はどうなるのか-という2項目は詰めたい。

 病院存続については運営予測と建て替えや改修費用の概算は欠かせない。説明会では、直近10年の収支で7年は黒字であることや、現在は60%台の病床利用率も過去10年では80%台が6年、70%台が3年という数字も明らかにされた。町が行った建て替えの試算も含め、存続した場合の予測は示したい。規模縮小による存続案についての見解も示すべきだろう。

 診察科目について町は、新武雄病院に内科、眼科、整形外科の開設を求めている。現在は内科と眼科は毎日、皮膚科や整形外科などは週に数日という診療体制だが、診療所になった場合にどうなるのかは、議論の大前提だろう。

 国は「地域包括ケアシステム」の構築を進めている。高齢者が住み慣れた地域で医療や介護、生活支援など五つのサービスを一体的に受けられる仕組みだ。実施主体は自治体などの地域。医療機関のバックアップが欠かせない。医師会関係者は「公立病院はその中核になる施設」とも指摘する。

 「厳しい経営状況への対処」と「将来にわたる地域医療の充実」という難題の中で方向性を探ることになる。数字の分析だけでなく、識者の知見も聞くなど、冷静に議論を尽くしたい。(小野靖久)

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