黒田東彦(はるひこ)日銀総裁は9日、2期目に入った。今後5年間、新たに就任した2人の副総裁らとともに、デフレ脱却と金融システムの安定化に取り組む。黒田氏は時期尚早と繰り返しているが、大規模な金融緩和を縮小する「出口戦略」が最大の課題になるだろう。

 日本経済は今のところ、良好な状態を維持しているが、米国の保護主義的な通商政策が世界経済を揺さぶるなど不透明感は増している。北朝鮮の核・ミサイル問題も予断を許さない状況だ。国内でも財務省の決裁文書改ざんなど公文書を巡る問題が頻発し、内閣支持率が急落。安倍政権の看板政策であるアベノミクスの失速も懸念され始めた。こうした状況下で金融政策が担う重責を自覚して任務に当たってほしい。

 日銀は2%の物価上昇を目指し金融緩和を続けてきたが、5年経過しても達成できていない。しかし、物価下落が続き経済活動を圧迫するデフレスパイラルからは脱したとみていいだろう。

 この間、円安や株高などの効果で日本経済は好転、企業業績や雇用情勢は大きく改善した。外需への依存度が高いとはいえ、物価が上がらなくても、景気拡大が続いている今の状況をどう総括するのか。

 新任の若田部昌澄副総裁は就任会見で、追加緩和に積極的な考えを示したが、世界的な傾向は違う。米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)は物価上昇率が目標とする2%に達していない中でも、緩和縮小に向かっている。

 景気減速に備え政策の余地を確保する必要性があるほか、緩和終了に伴って資産を圧縮する際に発生が懸念される損失を、できる限り縮小する狙いがあるとみられる。

 何も米欧に合わせる必要はないが、2%は必達だというのなら説明が足りないのではないか。現在の政策を継続するというのなら、現状をどう分析し、何を目的として2%を目指すのか。黒田氏には国民、市場に分かりやすく説明する責任がある。

 折しも今月は、中央銀行としての独立性を高めた新日銀法の施行から20年、大規模金融緩和を始めてから5年の節目だ。

 大量の国債買い上げは日銀が政府の財政支出を支える「財政ファイナンス」の色彩が濃くなってきたとの指摘も多い。また、緩和策による低金利には、融資利ざやの縮小や運用難が金融機関の経営を圧迫する副作用も伴っている。特にマイナス金利の影響は深刻だ。日銀の意図とは逆に金融システムの不安定化につながっているといわざるを得ない。

 政府との協力や協調は重要だが、金融政策の目標や手段の選択判断で政府からしっかり独立できているのか。現在の緩和策の目標金利水準や、国債や上場投資信託(ETF)などの買い入れ規模は適正なのか。買い入れ国債は発行残高の4割を上回り、ETFの保有残高は東証1部の時価総額の3%に上っている。

 日銀としての判断はあるのだろうが、現在の正副総裁を含めた政策委員会のメンバーは全員、積極財政や金融緩和を志向している安倍政権下で選ばれており、政策論議は硬直的な印象も受ける。外部の専門家らとの意見交換などを通じて異論、反論に耳を傾ける機会を設けてもいいのではないか。

(共同通信・高山一郎)

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