陸自ヘリ墜落事故報道や明治維新150年企画について議論を深めた「報道と読者委員会」=3月28日、佐賀市の佐賀新聞社

社会起業家・ユニカレさが代表理事・大野博之氏

まちづくり団体むらつむぎ代表・千綿由美氏

佐賀大学大学院教授・上野景三氏

宮島醤油社長・宮島清一氏

弁護士・牟田清敬氏(座長)

 佐賀新聞の報道の在り方を議論する「報道と読者委員会」第7期委員(牟田清敬座長、5人)による本年度2回目の会合では、神埼市での陸上自衛隊ヘリ墜落事故の報道と、明治維新150年関連の企画をテーマに意見を交わした。ヘリ事故では、きめ細かな取材を評価する一方で、事故原因に迫る報道を求めた。明治維新関連では「さが維新ひと紀行」「佐賀維新新聞」の両企画を好意的に受け止める意見があった。要旨を採録する。

■出席者(順不同)
弁護士・牟田清敬氏(座長)
宮島醤油社長・宮島清一氏
佐賀大学大学院教授・上野景三氏
まちづくり団体むらつむぎ代表・千綿由美氏
社会起業家・ユニカレさが代表理事・大野博之氏

 

◆陸自ヘリ墜落事故報道◆ 本社報告

 2月5日夕方、編集会議の最中に事故の一報を受けた。当日は最終的にカメラマンを含めて約20人が取材に当たった。情報が錯綜(さくそう)したが、事故の概要をまとめた1面の記事に加え、現場周辺の目撃談や反応をまとめた記事、知事や関係市町の首長や防衛省の対応、佐賀空港へのオスプレイ配備計画への影響を報じた。

 幼稚園や学校もある住宅地への墜落で、小学5年の女の子が巻き込まれてけがをしたという事故の重大性を踏まえて、連日、続報を掲載した。事故原因や地域に及ぼす影響を柱に、読者の疑問に答えるような情報の提供に努めた。

 これだけの重大な航空機事故は経験したことがなく、記者もデスクも学ぶことから始まった。ヘリの操縦席で何が起きていたのか、実相に近づけないかと陸自ヘリの元操縦士を探して推測してもらったり、本社報告

試験飛行の直前に交換した部品が「中古品」だったと分かった際には、こうした運用が認められているのか学識者に尋ねたりした。

 気がかりなのは地域への影響で、地元の子どもたちや住民への心のケアの状況などを折々に報じている。今後も地元紙として、被災地域の人たちの等身大の声や自治体などの受け止め方をしっかりと伝えていく役割があると考えている。

 原因究明に向けて現在、飛行記録に関するデータの抽出が終わり、解析が始まっている。防衛省は最終的な調査結果が出るまでに、事故発生から4カ月以上かかる可能性を示唆している。動きを注視していく。

原因追及しっかりと

 大野委員 連日報道されていて、情報がさみだれ式に出てきたので、事故から1週間などでのまとめ記事で、何が課題で、どんな影響が出るのかというところがもう少しあればよかった。墜落現場だけでなく、周辺への影響だったり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)だったり、事故による二次的な問題も注意して報じてほしい。

住民目線の記事もっと

 上野委員 読者として知りたいのは、原因究明がどういった形で展開されていくのかという点だ。結論は、事故に関する報告書の公表まで待たなければならないということだが、それまでの期間も分かる範囲で取材してほしい。

 紙面からは、防衛省の動き、自治体や首長の動きなどが見えてくるが、住民や県民の目からどういったものが見えてくるのかという観点からの記事は少なかったのではないか。多様な観点から立体的に報道されたかが気になった。

死亡隊員の報道少ない

 牟田委員 事故で自衛隊員が亡くなったが、報道では事故が大変だったという点がクローズアップされて、亡くなった方に関する報道が少なかった。通常、事故の報道の場合、亡くなった方の報道がある。今回ももう少しあってよかった。

究明と再発防止に関心

 宮島委員 事故に関する報道はしっかりやっていたと思うが、今回は原因究明をどう進めて、再発を防ぐかというところに関心がある。防衛に関することで、部品も米国製ということで解明が難しいと思うが、しっかり追及してほしい。

 千綿委員 なぜこういう事故が起きたのか。いろいろと伝えられているが、自衛隊機に詳しくない人にとっては分かりづらいと思う。佐賀にはオスプレイ配備計画や目達原駐屯地の部隊移駐の話があり、先々のことへの不安もある。原因究明の過程で、安全性や原因につながることに関して、しっかり報じてほしい。

 連日、続報が掲載されていたが、事故が発生した日にちが入っていない記事もあった。いつ墜落したかがあれば、時間の経過と状況変化も分かりやすい。

 中尾社長 初めて記事を読む人がいるという前提で書くという議論がある一方、できるだけ情報を盛り込むために、分かりきった情報は省くという心理もあって葛藤があるのも確かだ。

 宮島委員 事故を巡り、加害者か、被害者かはっきりしない段階での扱い方は難しいと感じた。操縦ミスなのか、一生懸命頑張ったけれど別の要因で事故を避けられなかったのか。数日間はそれが分からない期間がある。できるだけ淡々と事実を伝えることが大事ではないか。

 大野委員 読者にはいろんな視点があり、今回の事故でも、操縦士の家族が周囲から何か言われたりするのでは、と気になったりした。後で振り返りの記事を出されると思うが、いろんな視点を意識したアプローチでまとめると、読者にとっても読み応えがあるのではないか。

 

◆明治維新150年企画◆ 本社報告 

 「明治維新150年」関連では年頭に、佐賀県出身の作家北方謙三さんと人気漫画「キングダム」を手がける漫画家原泰久さんの歴史対談を掲載。作家の半藤一利さんにも歴史を概観するインタビューをした。

 毎週土曜の「さが維新ひと紀行」は、前年の「さが維新前夜」の後継企画。幕末に生まれ、明治期に活動した佐賀ゆかりの人たちをさまざまな分野からピックアップしている。各地域の足元にある歴史を探り、足跡が近代国家の形成や現代社会とどうつながっているかを見つめる。序盤は、県内各地で興味や関心を持ってもらおうと、地域にちなんだ経済・産業分野の人物の歩みをたどっている。

 紙面であまり語ってこなかった人物を含め、50人余りを紹介する。「個人史」にとどまることなく、関連する国内外の情勢を盛り込んで時代の変化を切り取り、奥行きを出したい。途中には、分野別に時代を概観する回を挿入する。

 文化面には毎月第1、第3金曜に「佐賀維新新聞」を掲載している。幕末維新期を舞台に、歴史的な出来事や人の動きを現代の新聞のスタイルで描く。「もしも当時、今の新聞があったら?」という視点で、歴史を身近に分かりやすく伝えることを心がけている。

 3月に開幕した「肥前さが幕末維新博覧会」についても随時取り上げていく。

 

佐賀県の多様性注目

 宮島委員 佐賀における明治維新の顕彰は、取り上げる題材が「佐賀の七賢人」など佐賀市周辺に偏ってしまう傾向がある。佐賀県が持つ多様性に注目してほしい。多くの地域の人々の足跡を紹介する「さが維新ひと紀行」は、その点に配慮されている。

 新聞仕立てで臨場感のある「佐賀維新新聞」も大変面白い。いま歴史を勉強している中高生が読むと、教室で教わるのとはまた違う、生き生きとした歴史の動きを実感できるだろう。

人物発掘興味深い

 千綿委員 歴史は苦手だが、毎回「ひと紀行」を読むのを楽しみにしている。佐賀にこんな人がいたんだという発見があるし、佐賀県が誕生した経緯を解説した回も興味深かった。

 記者による中学校での出前授業「さが維新塾」も面白い。今後も活動を続けてほしい。若い人を育てるという意味では、「維新新聞」から「ひと紀行」へ、さらに幕末維新博へと、新たなつながりを生み出すことができるのではないか。

維新新聞、遊び心満載

 大野委員 「ひと紀行」は序盤に唐津や鳥栖の人物が取り上げられ、新たな発見があった。現在の事象を併せて記述しているのも特徴。外務卿(きょう)として活躍した副島種臣の回では、今の外交と照らし合わせた表現が意識されていた。

 「維新新聞」は遊び心が満載だ。佐賀藩がパリ万博に参加した背景を解説するなど、内容に奥行きもある。有名な江戸城開城に江藤新平が立ち会ったとされるエピソードなど、佐賀とのつながりも学べる。写真に加えて四コマ漫画や風刺画を掲載するなど、とことん遊んでほしい。

 上野委員 「維新新聞」は楽しんで作っている様子が伝わってくる。興味深い紙面構成になっているが、中高生にとっては難しいのではと思う部分もある。例えば、パリ万博のことは中高生は知らないだろう。「佐賀」と「維新」との関係を示す見取り図が必要なのではないか。

 「ひと紀行」も興味深く読んだ。佐賀の近代化を、人物を通して描いている。多様性を意識し、多面的に構成しようという狙いを感じる。「こんな写真があったのか」と思うことも多く、写真をパネル展示してはどうか。さまざまな語り手も登場し、郷土史研究発展の糸口にもなり得る。

 牟田委員 「維新新聞」は面白い。教科書がこういう書き方をしていたら、日本史をもっとまともに勉強していただろう。

 ほんの150年前に日本で内戦があった、という点を考えさせられた。昔のことのように感じていたが、実はそうではない。佐賀藩がパリ万博に参加し、世界に出ていく時代だったことにも驚かされた。「ひと紀行」は、それぞれの地域に偉人がいたことを知ることができるいい企画だ。

 宮島委員 内容が難しいという指摘があった。歴史は「佐幕派」「倒幕派」などときれいに整理して教えられるものだが、実際に歴史の渦中にあるときはいろんなうごめきがあり、単純には語れない。そんな微妙な話を新聞が書くことが面白いのだと思う。

 

ヘリ事故真相近づく努力続ける

編集本部長(前編集局長) 澤野善文 

 全国では目を覆うような出来事が日々、紙面をにぎわせているが、佐賀県内は住民を震撼(しんかん)させるような事件、事故は比較的少ないといえる。それは安心・安全なまちの証明でもあり、喜ばしいことなのだが、突発的なことに新聞社がどう対応していくのか。初動態勢、現場の情報共有、被害者、加害者、周辺住民への聞き取り…。今回の陸上自衛隊ヘリ墜落事故は、取材という観点からもさまざまな示唆を与えてもらった。

 個別には、改訂作業を進めている「佐賀新聞記者ハンドブック」に反映していくが、被害者報道については、西鉄高速バス乗っ取り事件(2000年)の教訓が生かせたと考える。今回、事故で被害に遭った女の子について、本人や親族の話を聞くことはできたが、家族の意向を踏まえて父親の話だけに掲載をとどめた。読者の「知りたい」に応えたい思いもあったが、地元紙として、ずっと事故の影響などを見つめていかねばならない。何より女の子の気持ちに寄り添う対応だったことを、この場を借りて報告したい。

 論議では原因究明と再発防止に強い関心が寄せられ、改めて読者の焦点がそこに凝縮されていることを痛感した。防衛省のガードは固く、なかなか漏れ聞こえてこないが、できる限り真相に近づく努力を続けていきたい。

 「明治維新150年」関連の報道は今後も力を入れていく。一連の企画は紙面で紹介するだけでなく、県内の中学校で展開している「維新塾」などNIEにも活用、学校現場にフィードバックして子どもたちの「郷土愛」を育む取り組みに一役買いたいと思っている。

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