田んぼに据えた水槽で育てている菱の発芽状況を確認する本村宣行さん=神埼市千代田町

 「種をまいて発芽させる春先が一番大事」。神埼和菱組合長の本村宣行さん(72)=神埼市千代田町=がそう言って、自宅そばの田んぼに据えた大型水槽をのぞき込んだ。確認したのは菱の発芽状況。秋の風物詩になっているハンギーによる菱の実採りの情景を生み出すまでには、半年以上前からの準備が欠かせない。

 和菱は今年3月、神埼そうめんとともに市の「ふるさと名物応援宣言」を受けた。地域資源を活用する中小企業の事業促進を目的に国が支援する制度で、販路拡大に向けた助成を受けることができたり国のサイトで紹介されたり、知名度アップが期待できる。

 和菱は焼酎や和菓子に加工される。伝統的なクリークでの生産に加え、5、6年前からは休耕田での栽培に着手した。ただ、組合員は15人ほどで、安定供給となると心もとない。「水田栽培の範囲をもっと広げなければ」。地域の産業として成長していくには課題もあると本村さんは考えている。

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 ふるさと納税制度がスタートした2008年以降、市への寄付額は増え続けてきた。16年度からは、多くの自治体が登録するポータルサイトに菱焼酎やイチゴなど、従来の4倍以上の184品を掲載した。この年度の寄付額は前年度の3倍以上の2591万円に上り、返礼品を拡充した17年度は4712万円に増えた。

 一つ一つの特産品が少しずつ財源に結びつく中で、応援宣言を受けた和菱の加工品。後継者難で限界はあるものの、工夫が続く。本村さんは「既存の観光資源と結びつけることはできないか」と昨年、吉野ケ里歴史公園(神埼市郡)で初めて菱の収穫体験会を開いた。特産品を呼び水に、どれだけ観光客を呼び込めるか。振興に向けては、地域の観光資源との相乗効果が欠かせないとみている。

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 さまざまな歴史・文化遺産に恵まれている神埼市。春と秋に一般公開される九年庵には国内外から多くの観光客が足を運ぶ。吉野ケ里歴史公園には17年度、73万5千人が訪れ、年間の来園者数が過去最多を更新した。家族連れの国営公園の利用を促す国の試みに合わせ、県が4月から1年間、小中学生の入園料を無料にするなど追い風も吹く。

 多くの観光客が訪れる一方で、宿泊を含めて、どう滞留型に発展させていくかが思案のしどころだ。商工観光の関係者からは「仕掛けがさらに必要」という声も聞こえてくる。

 特産品のブランド力を上げることができれば、誘客力も増していく。交流人口が増えれば、経済効果にとどまらず、地域に活力も生まれてくる。既存の観光資源を巧みにつなげて、活性化につなげることができるか、試みは続く。

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