新しい環境は誰しも苦手だ。「よろしくお願いします」。あいさつしようにも、なぜか声がうまく出ない。初めての職場、初めてのクラスメート。「緊張しているな」。そう思うとますます緊張する◆〈スタートのポーズに迷う年男〉。読者文芸欄選者の小松多聞さんの川柳だ。昨年の新春詠に載っていた。なぜ今ごろ年男の話? という声がしそうだが、戌年、もうすぐ還暦の身でこの欄の担当になった◆私事ながら、小説との出会いは、志賀直哉の「清兵衛と瓢箪」「小僧の神様」が最初。中学生の時、悪ふざけばかりしていたので、困った先生が読むよう勧めた。夏目漱石も井上靖も感想文を書かされた。貸本屋にも通った。1冊20円で月刊漫画「冒険王」を借りてきて、むさぼり読んだ。だから母が「漫画のおかげで少しは頭がよくなった」と今も思っている◆誰も見ていないのに、しきりにポーズをとってみる。一生懸命さと、それゆえの切ない姿。小松さんの句には、そんな人々を見守る温かなまなざしがある◆新年度。何枚もエントリーシートを書き、就職を決めた人もいるだろう。家族の思いを感じながら新しい鞄を下げて校門をくぐる人もいるだろう。スタートラインでは戸惑いも、迷いもある。それでも、ひたむきに生きようとする姿に、一筋の光を見いだしていきたい。(丸)

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