佐賀県有明海漁協が表明した有明海再生に関する考え方の文書

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、開門調査を求めている佐賀県と県有明海漁協は開門しない前提での訴訟の和解協議を容認することを表明した。開門を求める声が根強い中での判断の背景には、開門のよりどころの確定判決が“無効化”する公算になった状況がある。有明海再生の道筋はいまだ見えない中、確定判決を履行しない国を不問にする司法の決着が現実味を増している。

 「紙に書いてあることがすべて」。3月中旬、漁協がまとめた「有明海再生に向けた考え方」の趣旨について報道陣に問われた徳永重昭組合長は、そう繰り返した。文書は、福岡高裁が国の主張に沿って開門しないことを前提とする和解勧告を示したのを受け、訴訟当事者の開門を求める漁業者と国に和解協議を進めるよう求めている。

▼方針支持

 有明海再生事業の継続や潮受け堤防内の調整池の小まめな排水、堤防の排水ポンプ増設の3項目も、従来の漁協要望事項として明示した。一方、「開門調査を含む有明海の環境変化の原因究明が必要」との主張を堅持することも付記している。県も「現実的な対応」として漁協の方針を支持し、山口祥義知事が3月28日、農水省を訪れて斎藤健農相に直接報告した。

 開門関連訴訟で、和解協議に入った福岡高裁の訴訟はとりわけ重要視されていた。確定判決に基づく開門を強制しないよう国が求めていて、認められれば確定判決の効力が事実上失われるからだ。高裁は勧告で、開門せずに国が示す基金案によって解決を図る方向性を示した。開門派の漁業者側には和解協議が決裂しても国に有利な判決になることを示唆し、司法の「非開門」の流れが決定的になった。

▼徹底抗戦

 基金案は100億円規模で漁業振興を目的とし、国が和解協議前に漁協に対して受け入れを求めていた。漁協は回答を見送る一方で基金案と別に有明海再生事業の継続など3項目を要望した。国は高裁へ提出した文書でそれらの要望を示し、「和解協議が進展すれば検討する」「引き続き有明海再生が重要な政策課題であるとの認識に立つ」と前向きな意向を示した。

 高裁も国に呼応する形で「(漁協は)現状を踏まえて苦渋の決断や検討に至ったと思われ、その要望は尊重されるべき」との見解を和解勧告に加えた。漁協が「開門」と「非開門」の矛盾するような考え方をあえて示したのには、和解協議が漁業者側の拒否で決裂する見通しの中、訴訟にかかわらず要望に応えるよう訴える狙いがうかがえる。

 国は福岡高裁の和解勧告に関して4日までに回答する。「和解に至れるようあらゆる努力を行っていく」としているが、協議決裂によって基金案や漁協の要望を議論する場がなくなって立ち消えになる可能性があり、漁業者の反発も予想される。当事者の漁業者側弁護団は既に訴訟で上告する意向を示すなど徹底抗戦の構えを見せており、問題の行方は依然として混沌(こんとん)としている。

国の訴訟進行に関する上申書の一部要旨(2月23日付)

 排水ポンプの増設は現時点では費用負担の在り方などに課題があるが、和解に向けた協議が進展すれば検討する。小まめな排水の実施はこれまでと同様に努力していく。有明海再生事業の継続は、毎年度の予算編成過程で取り組みの成果を踏まえ検討するが、引き続き有明海の再生が重要な政策課題であるとの認識に立って検討する。

福岡高裁の和解勧告の一部要旨(3月5日付)

 佐賀県の漁業団体は執行部において一定の要望をすることで基金案受け入れの可否を検討している状況にあり、佐賀県も漁業者に寄り添う姿勢と見受けられる。本来は開門を求めるところ、現状を踏まえて苦渋の決断をし、または検討するに至ったと思われ、その要望は尊重されるべき。

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