年度替わりが近づいてきた。新たなスタートに胸を弾ませている人もいれば、不本意な進路になかなか前向きな気持ちになれない人もいるだろう◆昨年105歳で亡くなった医師日野原重明さんが著書『生きていくあなたへ』(幻冬舎)で、「人生でいちばん悲しかったこと」として、旧制高校の理科甲類、いわゆる医学部進学コースに落ちたことを挙げている。生涯で最も悲しんだ不合格の知らせは、実はちょっとした手違いにすぎなかったのだが、日野原さんは一晩中泣き続けた。「こんなにも医学部に入りたかったのか」と◆7歳の時、母親が危篤に陥る。必死になって祈るが、それは「お母さんを助けて」ではなく「どうか神様、母を救おうとしてくださっているこの安永先生を助けてください」だったという。母親は一命を取り留め、「僕が医師を目指そうと決心したのはあのときです」◆順風満帆の人生を送る人は、ほんの一握りだろう。「人生には、つらく悲しい出来事や、思い通りにならないことがたくさんあります。むしろそのほうが多いかもしれません」「本気で泣いた経験のある人はまた、人の痛みを知ることができます」◆日野原さんの死後に刊行された『生きて-』は、言葉の花束のようだ。別れと出会いの季節。さあ涙を拭いて歩き出そう、と背中を押してくれる。(史)

このエントリーをはてなブックマークに追加