醪を酒袋に入れて搾る。袋から出ると酒に、中に残ったものが酒粕になる。左が筆者

 冬場半年を出稼ぎで酒造りに没頭すると、その間は家族や親族、そして村の人たちにあれこれ迷惑をかける。中学校を出てから52年間、肥前杜氏の中でも変則な杜氏生活をしてきた。

 若い頃は全国の名酒蔵を転々とし、学業も通信制で学んだ。最後はふるさとの酒蔵でご恩返しと思いながら、この蔵は6蔵目。ここで18年、酒造りをしている。

 三つの蔵を掛け持ちで造ったこともあり、その頃は小学校の育友会長、村の区長、農業の水利組合長まで仰せつかり、それでも酒造りは休まず続けてきた。私の酒造りは蔵元の理解と蔵人たちの協力、そして地域の厚意に支えられてきた。

 今、蔵は仕込みが終わり、残り数本となった醪(もろみ)は昼夜ふつふつと発酵している。やがて搾った酒は瓶に詰めて冷蔵庫で貯蔵する。この冬は気候に恵まれ、酒造りの機械器具まで調子よく動いて、まるで私を応援してくれたかのようだった。

 もうすぐそれらの酒をコンクールや鑑評会に出品するための研究会が行われ、私も佐賀と福岡に出品して一番良いものを選ぶ。今年は国内外5カ所に出品するので、今までと異なる緊張感に包まれている。

 日本酒は国内出荷が低迷する中、世界的な和食ブームを背景に輸出は増加が続いている。5年前に比べて178%と急伸している。日本酒に光りが見える。

 酒造りは稲作と共に大陸から日本に伝わり、その後、独自の進化をして「日本酒」になっていった。日本酒は日本の水、日本のコメ、日本の技で造られ、世界でオンリーワンの酒である。

 日本酒に似た酒、日本酒造りに似た醸造技術は世界のどこにもない。そのことを世界が気づき始めている。生涯を賭けて悔いのない仕事だと、あらためて思う。

 1年間、私の拙い文章を読んでくださり、誠にありがとうございました。=おわり

 

 いのうえ・みつる 1951年生まれ。「肥前杜氏」として半世紀にわたり酒造りに携わる。現在、有田町・松尾酒造場(宮の松)に勤務。九州酒造杜氏組合長。唐津市肥前町納所。

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