北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が首脳外交に乗り出した。その最初の訪問地は血盟的な同盟関係にあるとされながらここ数年は関係が冷却化していた中国だった。

 4月には南北首脳会談、さらに初の米朝首脳会談が5月にも実現する見通しだ。北朝鮮は長期にわたり安定した安全保障環境を獲得するため、非核化をカードに戦略的な覚悟を抱き動きだしたとみるべきだろう。

 今後、非核化と北朝鮮が求める長期的な安全保障の枠組み構築を巡る駆け引きが本格化することが予想される。拉致問題を抱える日本も、長期的な視点で柔軟に対処することが求められる。「最大限の圧力をかけ続ける」という方針だけでは、朝鮮半島を巡る首脳外交で地殻変動が起き始めている流れから取り残されてしまう懸念がある。

 残念ながら、現状では日本が出遅れていることは否めない。拉致問題に関連した水面下の接触ルートなどを基盤に、北朝鮮の体制維持にとって日本が必要だと認識させる仕掛けを検討することが必要だろう。

 北朝鮮はかなり戦略的に動いている。南北首脳会談の後に控える米朝首脳会談に向け、これまでやはり疎外されたような立場にあった中国を今回の訪中で取り込むことに成功した。即興的に決断することも少なくないトランプ大統領を相手に、どう立ち回るのか金委員長も苦慮しているとみられる。

 そこで北朝鮮は、米国との首脳会談が決裂して軍事的緊張が再燃する最悪の事態まで想定し、米国と渡り合っているもう一つの大国、中国を安全弁として位置付けようとしているといえる。既に昨年2回、トランプ大統領との首脳会談を経験している習主席との対話から、金委員長は何らかの示唆を得ようとした可能性もあろう。

 中国には、核問題を巡る6カ国協議の議長国として、北朝鮮の非核化に関与してきた影響力を回復したいとの思惑がある。同時に南北の和解が進み、平和共存の枠組みが定着していく朝鮮半島が、少なくとも反中国の性格を帯びないよう存在感を維持しておきたいとの狙いもあるだろう。お互い利用価値があると認め合ったことが今回の中朝首脳会談の背景にある。

 振り返れば、一時は「謎に包まれた指導者」とまで呼ばれた故金正日総書記が2000年から首脳外交を積極的に展開したスタートが、同年5月の訪中だった。その後、同年6月に南北首脳会談を、さらにはロシアのプーチン大統領とも首脳会談を行った。

 米国との首脳会談は実現しなかったが、当時のクリントン大統領を平壌に招請する段階まで調整していた。日本とは02年9月になって小泉純一郎首相と初の日朝首脳会談を実現させ、国交正常化を盛り込んだ日朝平壌宣言がまとまった。

 北朝鮮が18年前に展開した畳み掛けるような首脳外交の前例にならえば、金委員長の今回の訪中は、朝鮮半島に関係する国々との首脳会談を一気に進め、長期的な体制維持に向けた足場固めを図ろうとする第一歩と読み取れる。

 日本は国交正常化を盛り込んだ平壌宣言を再生させることが、拉致問題の解決につながることを再認識しつつ、米韓や中国と連携して北朝鮮への働き掛けを強めるべきだろう。(共同通信・磐村和哉)

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