周囲に尋ねてみると、意外に多い突発性難聴。新聞を読んでいるとき、テレビを見ているときなど、何の前触れもなくある日突然、急激に「聞こえ」が落ちていきます。最近増加傾向にあるといわれる突発性難聴の治療法などを、佐賀県医療センター好生館(佐賀市)耳鼻咽喉科の宮崎純二部長と大橋充医長に聞きました。

 

「様子見て」は禁物、すぐ耳鼻咽喉科へ

低音から高音まで広範囲

 突発性難聴は、低い音から高い音までかなり広範囲にわたって急激に聞こえが落ちる症状です。突然、聞こえが悪くなる耳の病気には、回転性のめまいを伴う「メニエル病」や低音の聞こえが悪くなる「急性低音障害型感音難聴」がありますが、突然症状が出て、原因不明なものを総じて「突発性難聴」と呼びます。

いまだに原因不明

 突発性難聴は、性別に関係なく誰でも発症する可能性がありますが、子どもがかかることはほとんどなく、大人の病気と言われています。原因は、ウイルス感染、循環障害、神経がある内耳のイオン電位の崩れなど、いくつか説がありますが、はっきりしたことは分かっていません。
 治療現場での印象では、風邪をひいたあとや、仕事が忙しくて夜も眠れない、新年度で生活が変わったなど心身のストレス過多の人や、糖尿病などで血流が悪い人に多いようです。
 数字的な調査はしていませんが、突発性難聴を発症する人は意外に多く、最近の印象として患者さんの数は増えています。また、再発する人は非常に少ないですがいます。

耳閉感と耳鳴り

 

 症状は「耳閉感(耳づまり)」と「耳鳴り」を訴える患者さんが多いです。患者さんによって症状が違い、表現の仕方も違いますが、「鍋のふたで耳を覆ったようだ」「耳あかが詰まったようだ」「耳を指でふさいでいるようだ」と耳閉感を訴える人が多いようです。また、「電話の声が聞こえない」「ラジオにイヤホンをしても聞こえない」という人もいます。いきなりキーンという耳鳴りがした、などの訴えも多く、めまいを伴うこともあります。ただ、症状は片耳のみで、両耳同時にかかることはありません。

治療は早いほどいい

 「全く聞こえないから治らない」ということではなく、「聞こえにくさが軽いから治る」というわけでもありません。個人差の大きい病気です。
 はっきりしているのは、薬を投与するタイミングが、発症から早ければ早いほど効果があります。一般に、治療の効果が期待できるのは、発症から2週間以内と言われています。「突然、急に聞こえにくくなった」「耳鳴りがする」「なんとなく耳がおかしい」と感じたら、すぐにお近くやかかりつけの耳鼻咽喉科を受診してください。

メイン治療はステロイド剤

 保険診療が可能な治療法は三つ。効果が高いのは、「ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)の投与」です。突発性難聴は、何らかの理由で音を感じる内耳の神経がダメージを受けていますが、神経は長い間ダメージを受けると回復不能になってしまいます。そこで炎症を早く取り除く効果が高いステロイド剤を点滴で大量に投与して、改善を試みます。可能なら入院して投与します。持病のある人には、投与期間はプロトコール(治療計画)を作って進めていきます。点滴ではなく、内服薬を服用する場合もあります。
 二つ目は「高圧酸素療法」です。血流障害で内耳が酸欠になっていることも考えられるので、高圧酸素室で血液の中に酸素を多く流す治療を試みます。ステロイド剤治療に消極的な人には、この治療法を勧めています。
 三つ目は「星状神経節ブロック」。首の付け根やのどの近くにある星状神経節という交感神経に局所麻酔薬を注射して、交感神経の機能を一時的に抑える方法です。ペインクリニックなどで試みているとこはあるようですが、当院では行っていません。
 これらを併用することもありますが、ほとんどの場合、ステロイド剤治療を施します。

心身の負担減らす努力を

 突発性難聴とストレスの因果関係は解明されていませんし、どんな病気にもストレス学説はあります。でも、前述したように、治療現場で患者さんを診察すると、非常に多忙だったり、生活が一変したような人が発症する例が多い印象はあります。体や精神的に強い負担がかかることがある場合は、その負担を軽減するように気を付けて、普段の生活を整えることが予防になるかもしれません。

症状が固定化する前に

 ときどき、「朝からおかしかったけど」と夜間に救急外来を受診する人がいます。しかし、検査は耳鼻科による特殊な検査や聴力の検査機器が必要になり、夜間には十分な対応ができませんので、日中に都合をつけて受診されるようおすすめします。
 また高齢者によくあることですが、「この程度で病院へ行かなくても」「年のせいだろう」と、受診を控える人がいます。症状が現れて1~2カ月も過ぎて来院すると、症状が固定してしまい、治療が難しくなりますから、様子を見ないでください。その後の生活のクオリティーにもかかわります。
 もし、夜中に突然、耳鳴りや耳閉感の症状が出たときは、朝を待ってからの受診で構いませんが、めまいを伴っている場合は脳の血管障害なども考えられますから、すぐに受診してください。突発性難聴も早期発見、早期治療が肝心です。

 

佐賀県医療センター好生館 耳鼻咽喉科医長

大橋 充 氏

 

おおはし・みつる 1998(平成10)年、宮崎医科大学医学部医学科卒、2006(同18)年、宮崎大学大学院医学研究科博士課程修了。宮崎医科大学付属病院、九州大学病院、祐愛会織田病院などを経て2014(同26)年10月から佐賀県医療センター好生館耳鼻咽喉科医長。今年4月から佐世保共済病院へ移動予定。日本耳鼻咽喉科学会専門医、指導医。佐賀県の難病指定医も務めている。

 


佐賀県医療センター好生館 耳鼻咽喉科部長

宮崎  純二 氏

 

みやざき・じゅんじ 1990(平成2)年、佐賀医科大学医学部医学科卒、1996(同8)年、同大医学研究科修了。佐賀医科大学附属病院、多久市立病院などを経て、2004(同16)年4月から佐賀県立好生館耳鼻咽喉科部長。2005(同17)年4月から、佐賀大学医学部臨床教授を併任。日本耳鼻咽喉科学会など所属。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本アレルギー学会認定専門医など多数。2004(同16)年度耳鼻咽喉科臨床学会賞受賞。

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