トランプ米大統領が知的財産権侵害を理由として中国に対して関税など制裁を科す大統領令に署名した。また米国は中国や日本から輸入する鉄鋼とアルミニウムへの新たな関税導入も発動した。この二つの措置に対して国際社会は反発し、特に中国は報復を明らかにした。米中貿易戦争の懸念が強まっている。

 米国の一連の動きは、長年かけて積み上げてきた自由貿易の国際慣習に反するものだ。世界貿易機関(WTO)協定違反の可能性もある。世界一、二の経済大国である米中間で貿易戦争が起きれば、グローバル経済に計り知れない悪影響を与える。米国に翻意を促すためには、2国間交渉ではなく各国は協調して圧力をかける必要がある。

 問題なのは、今回の措置が秋の中間選挙をにらんで、自分の支持基盤にアピールしたいというトランプ氏の狙いが透けて見えることだ。古くからの製造業地帯であるラストベルト(さびた工業地帯)などグローバル化に被害者意識を強める米国民を満足させるために、対外政策を利用するというものだ。

 トランプ氏の与党共和党は、昨年秋以来、ニュージャージー、バージニア両州知事選、上院のアラバマ州補選、そして下院のペンシルベニア州補選と連敗している。このままでは中間選挙、さらには2020年の大統領選で敗北するとの危機感が増している。

 このため、トランプ氏は公約だった「米国第一主義」の保護貿易政策を実行する必要にかられており、世界への影響や長期的な国益を考えているとは言えそうにない。

 中国による知的財産権の侵害の問題は、進出にあたって技術供与を強要される、ハッカー攻撃で企業秘密が盗まれる、との不満が日本企業からも語られるなど、国際的な大問題である。しかし、WTOなど多国間協議の場で問題の是正を図るべきであり、最大で年間600億ドル(約6兆3千億円)もの対象品に制裁関税をかけるとの一方的措置はおかしい。

 トランプ氏は、マクマスター国家安全保障問題担当補佐官の後任に対外強硬派のボルトン元国連大使を任命する人事も発表しており、国際協調に背を向ける姿勢を一層強めている。

 見逃せないのは、鉄鋼とアルミニウムの関税対象国に日本が含まれたことだ。日本との貿易赤字が巨額であり、自由貿易協定(FTA)の交渉に向けて圧力としたいとの理由と推測されている。

 日本政府は安全保障を理由とした今回の関税導入では日本は対象とならないはずだと主張してきた。だが安倍晋三首相とトランプ氏の関係や日米同盟の緊密さは、今回の決定を見る限りはトランプ氏には通じなかった。

 トランプ氏は、安倍首相と友人だと言いながらも、「(日本などが)米国を利用する日々は終わりだ」と述べた。日本との事前の十分な協議なしに米朝首脳会談に合意するなど、トランプ氏は日本を重視しているのかと首をかしげてしまう。

 トランプ氏の対外政策の特徴は、大国の力を発揮しやすい2国間交渉で相手の譲歩を引き出すというものだ。そこには同盟国であるかどうかという差はないとみておいた方が良さそうだ。米国に寄り添うことを大原則としてきた日本外交も今のままで良いのか、再考を迫られている。(共同通信・杉田弘毅)

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