ようやく本格的な春が訪れ、心地よい季節を楽しむ行事が各地で盛んになってきた。陶都有田でもこの時期、趣のある町家が並ぶ通りを観光客が散策する姿が目立っている。有田の町並みが観光資源として定着しつつあることを物語っているといえるだろう。それを後押しするように昨年12月、この有田の「文化的景観」が、「日本の20世紀遺産20選」に選ばれた。伝統産業の有田焼だけでなく、焼き物を生み出す有田の町や施設が貴重な歴史的財産として認められたことになる。1カ月後には有田陶器市が開かれるが、「景観」が選定された意義を有田全体で共有しながら、国の内外にアピールし、町活性化へつなげたい。

 20世紀遺産に選定した国際記念物遺跡会議(イコモス)の国内委員会によると、「有田の文化的景観」の主な構成資産として挙げられたのは、内山伝統的建造物群保存地区、黒牟田・応法地区、古窯群と文化施設群。その施設として、今右衛門窯、明治の洋風建築「有田異人館」、香蘭社、深川製磁などのほか、窯の煙突、有田独特のトンバイ塀のある裏通りなどの景観、さらに、井上萬二窯や柿右衛門窯、源右衛門窯、県立九州陶磁文化館が挙げられた。非常に広範囲で、まさに「有田の町全体」が対象になったといっていい。

 有田の中心街は、江戸初期に陶磁器産業のために新しく造られた町で、1828(文政11)年の大火でほとんどが失われたが、復興は早く、質の高い建物が建てられた。1928(昭和3)年からの表通り拡幅工事で、それまで不ぞろいだった町並みの壁線面が整えられ、現在の町の風景がこのとき形成された―。イコモスはそう紹介し、周辺地区についても窯業が近代も持続したことで、それを支えた窯業関連施設、文化施設群が一体となって景観を形成している、と評価している。

 今回の20世紀遺産選定を考えるとき、特筆すべきは、構成資産として挙げられた有田の磁器生産の中心地「内山」が、すでに四半世紀前の1991(平成3)年に国の「重要伝統的建物群保存地区」に選定されていたことだろう。選定の背景には、貴重な財産である町並みや文化施設を残そうと奔走した有田の先人の熱意があり、それが今回のイコモスの「20世紀遺産」選定に導いたといえる。

 20世紀遺産は、世界遺産の評価基準に基づいており、将来、「世界遺産」として登録される可能性もある。有田は一昨年に「日本磁器のふるさと 肥前」として「日本遺産」にも認定されており、こうした日本屈指の「認定」や「選定」には慣れっこになっている面がある。しかしながら、歴史遺産の価値を考えた場合、他の町から見ると垂ぜんの的であり、有田ではもっとその意義を認識し、共有していく必要がある。

 最近は、ゴールデンウイークの有田陶器市だけでなく、春の「雛(ひいな)のやきものまつり」、「秋の有田陶磁器まつり」と季節ごとに、そぞろ歩きを楽しむ観光客の姿が増えている。今年は明治維新150年にあたり、当時の洋風建築などへの関心も高まっている。貴重な歴史遺産を後世に残すためにも、保護と保存の機運を高め、伝統的な町並みと、焼き物の町としての生活感が長く息づいていくことを願う。(丸田康循)

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