「ちょーかわいそうなの、セッちゃんって」。中学2年の娘から同級生のことを教えられる中年の男。唐突な切り出しに父親が戸惑う場面から始まる作家、重松清の小説『セッちゃん』(『ビタミンF』所収)である◆「ソッコーだよ、速攻で嫌われちゃったの、みんなから」。セッちゃんがクラスでいじめられていると話す娘だが、実は自分が受けているいじめを架空の転校生に仕立てて、作り話の中に逃げ込む―というスジだ◆いじめが深刻になり、自殺に追い込まれる事案が続く。3年前に自殺した、茨城県取手市立中3年の中島菜保子さんのケースもそうだった。当初「いじめを確認できなかった」とした市教委だが、文科省の指導を受け撤回した◆当事者が苦しんでいても、軽いふざけ合いやからかいとみて、学校がいじめと判断せず、重大な事態につながる例は多い。今月は自殺対策強化月間。自殺者の総数は減っているが、若年層ではなかなか減少しない。信頼できる大人がいて、安心できる居場所を提供できているか、今一度、私たちも心にとめたい◆冒頭の小説では、父と娘が葛藤しながら困難な状況に立ち向かう。最後、父親が民芸品店で見つけた和紙製の「身代わり雛(びな)」を、親子で川に流す。不幸を全部持っていって、と願うように。一歩、踏み出すところに救いがある。(章)

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