2月上旬、唐津市の経営者や事業主と九州電力玄海原発に併設されている原子力訓練センターを見学した。燃料貯蔵プールや発電施設など原発本体は数回視察したが、訓練センターは初めてだった。

 作業で受ける放射線量をいかに低減するか、日常的に訓練が行われ、計器から床、天井まで中央制御室を模したシミュレーター室では職員十数人が訓練の最中だった。実際の運転時と見まがうようで、参加者の一人は「これ本番じゃないの」と驚き、「ある意味モノは生まない業務にここまで人と時間をかけるとは」と、感嘆とも嘆息ともつかない言葉を漏らした。

 玄海3号機は今月下旬の再稼働に向け最終的な段階に入った。ただ停止期間が長期になると予期せぬトラブルが発生することがあるという。所内がかつてない緊張にあることは想像に難くない。

 そうした中で定例議会が始まり、山口祥義知事は重大事故時の災害対策本部を早い段階で設置する考えを表明した。「対応力向上に不断に取り組んでいく」と述べたが、原発に電力を求める限り、リスクに対する不断の備えは続く。

 片や玄海町議会では国のエネルギー基本計画に原発の新増設を明記するよう求める意見書を取りまとめる動きが明らかになった。昨年の選挙で議員10人全員が原発推進派となったこともあり、19日の本会議で可決される見通しだ。

 エネルギー基本計画は年内にも改定される予定で、政府は原発を一定活用する姿勢は保持しつつ、新増設については世論の反発を恐れて慎重な姿勢とも伝え聞く。ましてや足元の玄海原発は安定稼働が最大の課題であり、新増設を率先する姿勢は論議を呼ぼう。

 さらに7月の町長選をめぐっては岸本英雄町長が4選不出馬を表明した。体調不良が理由だが、再稼働だけでなく、1号機の廃炉、2号機の存廃、さらには使用済み核燃料の中間貯蔵施設問題など、課題は山積し、地元にとどまらず「ポスト岸本」が注視される。

 東日本大震災後、玄海町は先陣を切って原発再稼働に動き、岸本町長の言動は時に波紋を呼び、内外から批判にさらされてきた。ただ取材にも率直に応じ、時時の心情を語ってきた。なかでも昨年秋の衆院選中、自民党の古川康氏の総決起集会で語った言葉は記憶に残る。

 自民党支持者を中心に大ホールを埋める参加者の面前で「原子力発電所なんてものは未来永劫続くものではないんです。私が言ってはいけんかもしれないかもしれんけど」と切り出し「2030年にゼロとかいう話ではなくて、当分の間は原子力発電所は必要だけども、人間の知恵が、技術が発達すれば、もっと新しい代替エネルギーができると思っています」と。

 来週20日には県内外の住民が再稼働差し止めを求めている仮処分申請について佐賀地裁が決定を出す。ここにきてクローズアップされている阿蘇カルデラの噴火リスクが論点として浮上する。

 8回目の「3・11」が過ぎていった。風化も指摘されるが、身の回りの一つ一つの動きを拾い上げると、原発とどう向き合うか、揺れ動いてきた日々を凝縮するような局面が目の前にある。この国、この地域がどんな方向を選択するのか、あの日に立ち返ってもう一度考えたい。(吉木正彦)

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