「桜守(さくらもり)」と呼ばれる人たちがいる。桜は、決して強い樹ではない。桜守は桜の命を支え続け、満開の春を届ける。吉永小百合さんの120本目の出演映画「北の桜守」が公開中だ◆1945年、日本領だった南樺太(現サハリン)には多くの日本人が暮らしていたが、終戦の8月15日を過ぎても、ここでは戦争は終わらない。旧ソ連軍の侵攻で逃げ惑い、吉永さん演じる主人公も息子たちと、大泊港(現コルサコフ港)から脱出を図る◆昨秋、私もその港町を訪れたが、日本時代の銀行や赤レンガ倉庫がそのまま残っていた。立ち寄ったユジノサハリンスクの博物館では、置き去りにされた梵鐘や位牌、剣道具が並び、町案内の地図には「江戸っ子食堂」「乙女だんご」など日本の屋号が読み取れた◆封切り前に福岡市で開いた会見で、吉永さんは「桜の時期には生きている喜びを感じる。この映画を撮って、きっと今年は今まで以上でしょう」と語っていた。息子役の堺雅人さんも「教科書ではほんの1行か、2行の事件が、これだけの物語になった」。引き揚げ者の思いを、しっかり込めたという自負がにじんだ◆吉永さんが傷ついた桜の幹を見つけ、墨と糊をこねて懸命に傷口をふさぐ場面がある。それはまた、引き揚げ者が戦争で負った、自らの心の傷を癒やす行為にも見える。(史)

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