岡本綺堂の名作『時代推理小説 半七捕物帳』に、ある素人芝居が出てくる。見せ場の割腹シーン。若旦那が手にした刀は偽物のはずが、いつのまにか本物にすり替えられていて…。巧妙な殺人事件に江戸は大騒ぎになる◆「取り違ったか、すり替えられたか。一体誰がそんなことをしたのか」―。こちらのすり替え事件も、関係者が自殺に追い込まれるなど、深い闇が広がる。森友学園問題の公文書が書き換えられていた疑惑だ。「原本がなく確認できない」と繰り返してきた財務省がきょう、書き換えの事実を認めるという◆国有地を格安で売り飛ばした当時の理財局長だった佐川宣寿氏は「森友学園側と金額の交渉はしてない」「記録は破棄した」と強弁し続けた。だが、破棄したはずの記録が出てきたばかりか、国会に示した公文書が改ざんまでされていたとは◆自殺した近畿財務局の職員は、森友学園側との交渉を担当する部署に所属しており、真相を知り得る立場だったのかもしれない。いったい誰が何の目的で公文書を書き換えたのか。上の意向を忖度したか、それとも誰かの指示があったのか◆冒頭の素人芝居の演目は『忠臣蔵』だったが、佐川氏の忠臣ぶりは相当なもので、トカゲのしっぽ切りで幕引きという筋書きが見え隠れする。それでは、亡くなった職員は浮かばれまい。(史)

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