山田洋次監督の名作映画「幸せの黄色いハンカチ」。服役し出所する高倉健さん扮(ふん)する男は、自ら願って離婚したが、「待ってくれているなら、黄色いハンカチを下げておいて」と刑務所から妻にはがきを出す◆妻の元に向かう男の鼓動が、画面から伝わるくらい息をのむ。そこには、たくさんの黄色いハンカチが。希望と再出発が映画のテーマだ。仙台市の荒浜地区にも、黄色いハンカチがはためいている◆ここには、かつて松林が広がり、海水浴客でにぎわう穏やかな暮らしがあった。それが、あの震災津波で800世帯のうち200人近くが犠牲に。この冬に訪ねると、住宅の基礎だけが残る色のない空間に、鮮やかな黄色いハンカチがロープにいっぱいつながれていた。胸が締め付けられる思いで見た◆地区は住めない災害危険区域に指定された。「でも、もう一回ここに住みたいという希望のシンボルなんだよね」。元住民の貴田喜一さん(72)はしみじみと語る。「ふるさと」「望郷」という言葉が浮かんだ。昨春から震災遺構として公開された、住民の心のよりどころである荒浜小学校には6万人以上が訪れた◆「忘れてほしくない」―。以前の様子を語り継ぐことで、風化を防ぐ。いつまでも記憶にとどめておきたいと願いつつ、前に歩を進めようとする人々の心の強さを思う。(章)

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