世界が動く時は速い。ともに「予測不能」なトランプ米大統領と金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の波長が合ったようだ。両国トップの首脳会談は史上初めてとなる。北朝鮮は核・ミサイル実験の凍結、非核化の意思も表明しており、北朝鮮の核危機は転換点を迎えた。

 北朝鮮の核・ミサイル実験、トランプ大統領の「完全に破壊する」発言という、昨年の緊張のエスカレートがうそのようだ。もちろんこれで対話が進み危機が去るとは楽観できない。

 しかし、このチャンスを生かしたい。首脳会談が実現するならば、朝鮮半島非核化や地域の包括的な平和を構築してほしい。日本人拉致問題の解決も実現する時だ。

 北朝鮮は本当に非核化し国際社会と共存したいのならば、実験凍結だけでなく、早急に核放棄の行動に着手すべきだ。

 北朝鮮の軟化は、軍事圧力と制裁が功を奏したためであることは間違いない。この機会を最大限に利用するためにも、圧力緩和には、当面慎重であるべきだろう。

 首脳会談には多くの懸念材料がある。

 まず準備不足だ。本来首脳同士が会う前には、外相や国家安全保障問題の補佐官が綿密に協議し、議題や最終的な合意案を詰める。ニクソン大統領の1972年の歴史的な訪中では、キッシンジャー補佐官が前年に北京を訪れ下準備を行った。

 今回の米朝首脳会談ではこうした動きは確認されていない。トップ同士がいきなり顔を合わせる。このやり方で首脳会談は成功するのだろうか。しかも5月までとされる会談への時間が短すぎる。

 議題も不明確だ。北朝鮮は米国による体制保証を求めている。だが、人権無視の統治を続ける体制を許さないという国際社会の意向はどうなるのだろうか。取引優先のトランプ氏がこの点をおろそかにする恐れがある。

 最大の懸念は、本当に朝鮮半島の非核化が実現するのか、というものだ。半世紀をかけて北朝鮮は核・ミサイル能力を築き上げた。国際公約をたびたび破ろうとするトランプ氏を相手に、合意したからと言って北朝鮮が核を放棄すると考えるのは困難だ。

 むしろかつての米朝合意同様にやがて破棄するための、単なる時間稼ぎではないか。首脳会談を通して核保有国としての地位確立を目指す狙いもあろう。北朝鮮のトップにとっては、米大統領との会談は歴史的な願望だ。だからそれに向けて大きな譲歩も辞さない。今回は、実験凍結と米韓合同軍事演習への理解という、形式だけの意向表明で、その歴史的な願望が実現してしまう。

 北朝鮮の脅威にさらされる日本の意向をトランプ氏が配慮して交渉に臨むかどうかも懸念材料である。拙速に見える今回の会談の受け入れには、関係国の意向に配慮した様子はない。関係国軽視の合意をされては困る。

 非核化だけでなく、米朝平和協定の締結、在韓・在日米軍の在り方、朝鮮半島の将来像など、さまざまな問題を金氏が提案する可能性がある。日米韓、そして中国とのすり合わせが必要だ。

 会わないよりは会った方が良いだろう。だが、真の目的は非核化と平和の確立である。核放棄への具体的で後戻りできない行動に着手するという北朝鮮の譲歩を会談前にでも引き出す粘り強さを米国に求めたい。(共同通信・杉田弘毅)

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