「タイムが良すぎる」「何かの間違いではないか」。2010年、カナダであったバンクーバー冬季パラリンピックのクロスカントリースキー10キロクラシカル立位。新田佳浩選手が激しく追い上げた。コースでタイムを見ていたコーチが、無線で荒井秀樹監督に興奮して伝える◆スタジアムの電光掲示板に表示された途中経過に、応援団からニッポンコールがわき起こる。最後まで激走し、新田は1位でゴール。自身、初の金メダルを獲得した瞬間だ◆日本のノルディックスキーチームはまだメダルがなく沈滞していた。その空気が一気に吹き飛ぶ。新田は見事に主将の責任も果たす。彼を中学時にスカウトし、ともに歩んできた道のりは、荒井監督の『情熱は磁石だ』(旬報社)に詳しい◆新田は3歳で祖父が運転する農機に巻き込まれ左前腕を失った。「孫を不幸にしてしまった」と責任を背負う祖父に「金メダルを掛けてあげたい」との願いをやっとかなえた。8年後の今、37歳となった新田も出場する平昌パラリンピックが、きょう開幕◆選手はリハビリの一環で出るわけではない。日本選手38人が記録と限界に挑むのである。みなぎる闘志、ひたむきな姿に出合えるだろう。子どもたちが、その活躍に憧れ次に続き、裾野が広がる―。期待しつつ、日本勢の頑張りを力強く応援したい。(章)

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