国営諫早湾干拓事業(長崎県)の開門問題を巡る訴訟の和解協議で、福岡高裁(西井和徒裁判長)は5日、開門しない前提で国が提案する漁業振興基金の方策によって全体的解決を図る和解勧告の方向性を示した。開門を命じた福岡高裁確定判決の勝訴原告の漁業者側弁護団は受け入れを拒否して判決を求める方針を表明し、協議は決裂する見通しとなった。

 高裁が正式に協議を打ち切った場合、7月30日に判決が言い渡される。弁護団によると、高裁は開門を前提とする協議を並行させる意向はなく、判決になっても国側に有利な結論を出す可能性が高いことを示唆しているという。確定判決による開門義務の履行を求め続けている開門派は厳しい状況に追い込まれた。

 勧告では、開門によって諫早湾周辺の営農者らが1997年の潮受け堤防閉め切りから21年間積み上げた生活に多大な影響を及ぼすと指摘。開門に伴う対策工事に少なくとも243億円かかる高額な負担も挙げ、「開門調査しても有明海の環境変化の原因が明らかになる保証があるとはいえない」として開門による解決の可能性を認めなかった。

 国の100億円の基金案を、「従来の公共事業に加えて有明海の再生に向けた取り組みの加速化を内容とし、重要な意義を有する」と評価した。基金の管理・運営団体に想定される佐賀県有明海漁協が一定の要望を加えて基金案受け入れの可否を検討している状況に触れ、「本来は開門を求めるところを苦渋の決断などをしたものと思われ、要望は尊重されるべき」と言及した。

 その上で「開門に代わる基金が、現在の混迷、膠着(こうちゃく)した状況を打開する唯一の現実的な方策」と結論付けた。勧告の受け入れなどの可否について4月4日までに回答するよう弁護団と国に求めた。

 弁護団の馬奈木昭雄団長は「基金案による和解協議に応じるつもりはない。確定判決をひっくり返すことは絶対に許されない」と反発した。国側は「開門を求める原告漁業者や漁業団体、自治体に引き続き理解と協力をもらえるよう努力していきたい」とした。

 訴訟では、確定判決を履行しない国が制裁金支払いの強制執行をしないよう求めている。2月26日に結審した後、和解協議を再開していた。

《解説》「開門」不履行が現実味

 福岡高裁が示した和解勧告の方向性と説明は、国の主張に沿った内容だ。開門を求める漁業者側に対して譲れるはずのない妥協を迫ったのは、和解協議が決裂して判決になればますます不利になるというメッセージが込められている。このまま進んだ場合、開門を命じた確定判決が履行されない可能性が濃厚になった。

 国が指摘するように、確定判決の後は開門を認めない司法判断が続く。福岡高裁は、長崎地裁の開門差し止め訴訟の和解協議で示された開門しない前提での基金案による打開策を踏襲した。開門の可否を巡って相反する二つの司法判断に対し、一方へかじを切った格好だ。高裁の和解勧告では、開門による有明海の環境変化の原因究明に疑問を投げ掛けるなど確定判決の判断を覆すような内容も含んでいる。漁業者側弁護団は確定判決という開門の後ろ盾を失ってしまう恐れも現実味を帯びてきている。

 佐賀県有明海漁協が受け入れの可否の検討に着手した基金案の動向も不透明になった。当事者の漁業者側が和解勧告を拒否する判断を示し、福岡高裁での成立は困難な情勢だ。「基金による和解」を目指す国がどのような動きを見せるかが焦点になる。(山本礼史)

このエントリーをはてなブックマークに追加