薬物依存症への偏見と無理解が患者の回復の道を遠ざけると話した精神科医の山田幸子さん=佐賀市

■非難や排除、回復阻む 精神科医 山田幸子さん(42)

 人権週間が4日、始まった。弱い立場の人が攻撃されたり切り捨てられようとしたり…。そんな生きづらさを感じさせる社会のありようを見つめ、地域でどう支え合えばいいのか、支援に携わる人たちに尋ねる。

 ◆歌手のASKAさんが覚醒剤を使用した疑いで2度目の逮捕をされ、報道が過熱している。薬物依存を責め立てることは治療の面から度々、弊害が指摘されてきたにもかかわらず、同じことが繰り返されている。

 多くの報道は犯罪の側面が強調され、依存症が病気だという視点が欠けている。この病気に苦しんでいる人が日本中にいることを想像できているだろうか。

 薬物依存者を「意志が弱い」「だらしない」などと意志や倫理の問題として非難する人がいるが、医療の観点からいえば、間違っている。こうした非難によって傷つき、誰にも相談できずに再び薬に依存するようになり、状況を悪化させてしまう。

 依存症は非難して良くなる病気ではない。風邪をひいた人や、がんを患った人を「自己管理が甘いからこうなったんだ」と責め立てるだろうか。少なくとも「早く良くなってほしい」と励ますはずだ。

 ◆薬物依存への偏見と無理解が、回復を困難にしている社会構造がある。

 薬物依存の原因はかつて薬の依存性が強調されていたが、環境や当事者の性格などが複雑に絡み合っているというのが今の定説だ。「寂しさの病」ともいわれ、一人にさせてはいけないのに、社会は一度でも薬を使った人を排除して孤立させ、薬に依存せざるを得ない状況に仕向けている。

 日本は「ダメ。ゼッタイ」というスローガンを薬物対策やその啓発に使ってきた。「覚醒剤やめますか? それとも人間やめますか?」というキャッチフレーズは多くの人の記憶に残っている。これは一定の効果をもたらし、日本は違法薬物の生涯経験率が先進国の中でも極めて低い。

 ただ、それでも薬物に手を出してしまう人たちがいる。使ってしまったらおしまい、その後のことは考えていませんというのではなく、使用した人をいかに支援するか、という視点も兼ね備えなければならない。

 

 ◆薬物依存症は回復しても、欲求との闘いは長く続くといわれている。だからこそ、長期にわたって当事者や家族を支える社会の態勢づくりが必要になる。

 刑務所内の依存症治療に関しては、治療を受けることができても出所と同時にストップし、悪化するというケースが頻繁にある。服役するだけでは回復しないのに、治ったと思い込む人も多い。依存症の専門病院や、回復を支援する民間組織など社会的資源は充実してきており、そこに服役後、もれなくつなぐ仕組みをつくらないといけない。

 薬物に限らず、依存症全般への偏見をなくすことも大切だ。依存症は早期発見、早期治療で進行を食い止めることができる。依存に陥る手前で病院にかかることができれば、治療の選択肢も増える。依存症は誰でもなり得る病気だという認識が広がり、精神科の敷居が低くなればいい。社会が人間の弱さを切り捨てたり苦悩に目を背けたりせず、しっかり受け止めることが必要だ。

やまだ・さちこ 1974年生まれ。医学博士。佐賀西高卒。筑波大大学院で薬物依存を研究し、東京都にある専門の診療所で院長を務めてきた。今年4月、Uターンして佐賀市鍋島町に開業した。

2016 人権週間企画

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