事件や事故の予測と未然防止への人工知能(AI)利用が、国内で動き始めている。再犯性の高い犯罪や、事故が発生する時間・場所には特有のパターンがあるともいわれており、AIで大量のデータを分析すれば、より精度の高い傾向などが読み取れ、抑止に絶大な効果をもたらすのは間違いない。課題は人権とのバランスをどう保つかだろう。

 神奈川県警がAIを使った取り締まりの新システム導入を検討していることが1月末、明らかになった。過去のデータなどから事件事故が起きやすい時間帯と場所を確率で示すシステムを構築し、予測ではじき出された時間や場所をパトロールするなどして迅速な対応につなげる考えという。2020年東京五輪開幕までの試験運用を目指し、県の新年度予算案に調査費を計上する。実現すれば全国の警察で初の試みになる。

 政府も子どもや高齢者が死傷した消費者事故の情報をAIで分析し、有効な再発防止策や注意喚起、製品改良などにつなげようと検討を始めた。自治体や消費生活センターなどに寄せられた転倒や転落、誤嚥といった大量の事故情報を消費者庁で一元管理し、発生時間や場所、季節、天候、製品の状態などを解析。どのような状況で事故が起こりやすいかを解明する。

 いずれも情報を分析して傾向を導き出し、課題解決につなげる試みで、膨大なデータ解析ができるAIを使わない手はない。

 AIには過去の事件や事故のデータはもとより、犯罪学の知見や統計学の数式を学ばせる。管轄するエリアの地図や気象条件も加える。会員制交流サイト(SNS)にはさまざまな情報が可視化されて飛び交っているし、警察は、組織犯罪に加えて詐欺や窃盗、児童買春など9類型の犯罪が追加された改正通信傍受法により、不可視な情報も収集できる。

 さらに街中には無数の防犯カメラがあり、道路には自動車ナンバー自動読み取り装置(Nシステム)が設置され、スマートフォンには衛星利用測位システム(GPS)が付いている。ありとあらゆるデータを集めて解析し、自ら学習を重ねるディープラーニング(深層学習)の手法も採用すれば、予測精度が高まるのは想像に難くない。

 ただ、これだけ技術が発達しても間違いが起こらないとは断言できない。それは、予測ミスという致命的なシステムエラーよりも、サイバー攻撃によるデータの改ざんや漏えいのほか、使う側の人間による入出力ミスといったヒューマンエラーや悪用へのリスクが拭えないからだ。

 また、AI活用による予測取り締まりが急速に進む米国では、犯罪が多発する特定地域の市民が根拠なく疑いの目を向けられるとして、人権を侵害し、偏見を助長するとの批判が強まっているという点も看過できない重大な課題だ。

 犯罪の機会を与えないことが予防の基本的な考え方だが、一方で行き過ぎや勇み足があってはならない。AIを使った犯罪予測・未然防止は、より安全安心な社会を実現するのに有用なシステムである半面、その運用については特に厳正にするなど、実用化に当たっては慎重な上に慎重を期すことが求められる。(森本貴彦)

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