国営諫早湾干拓事業の開門問題を巡る訴訟で、福岡高裁は和解を勧告した。漁業者側弁護団と国との和解協議が始まり、高裁がその方向性を3月5日に示す。

 裁判長の訴訟指揮が大切になる。開門を目指す漁業者側と、開門を強制しないよう求める国との主張は真っ向から対立。ただ双方とも和解による解決を目指しており、打開につながる案を提示できるかがポイントだ。

 事業を巡っては複数の訴訟が起こされた。開門を命じた福岡高裁確定判決がある一方で、開門差し止めを命じた長崎地裁判決がある。司法判断が分かれた結果、国は開門と非開門の相反する義務を負っている。このため、開門を命じた判決に従わない制裁金を払い続けている。

 これまでも和解協議は、干拓地の営農者らが国に開門差し止めを求めた長崎地裁の訴訟で行われた。地裁は一方的に開門断念を迫って漁業者側が受け入れず、「決裂」した経緯がある。

 今回の和解協議は、これまでと背景が違う。一つは、最高裁に統一的判断を求めるとしてきた国が方針を転換し、開門せずに100億円の漁業振興基金による解決を目指していることだ。

 もう一つは、佐賀県有明海漁協の動きである。漁協は干拓堤防内の淡水を諫早湾へ排水するポンプ増設案を求めたが、国は開門しない基金案受け入れがセットとの方針を崩さず、漁協側が拒否した。

 しかし、その後、漁協は条件付きで基金案受け入れの検討を始めた。ポンプ増設を基金とは別枠で実施するのが条件だ。この「軟化」は、国による受け入れの「働き掛け」が影響した形。

 基金案に理解を示す福岡、熊本両県の漁連からは、佐賀が反発を続ければ基金自体がなくなると危惧する声も漏れていた。孤立気味の佐賀の苦しさは察して余りある。国側とすれば、事情は変化したと言いたいだろう。

 だが、漁協は開門調査の必要性は言い続けている。何より漁業被害が深刻な佐賀県西南部の漁業者は、基金案の受け入れ検討に反発したままだ。

 そもそも漁協は訴訟当事者でもないのに、外堀から埋めようとするかのような国の姿勢はいかがなものか。予算を握っているのは国であり、弱い立場の1次産業従事者にすれば、振興策で頼りにするのは農水省だ。漁業者が対等の立場で国と議論するのは難しい。足元を見たような国の振る舞いには理不尽さを感じる。

 佐賀大と九州大のグループは最近、干拓事業の影響で有明海奥部の貧酸素化が進んだとの研究成果を発表した。貧酸素化は海中の酸素濃度が極端に減り、二枚貝などが死滅する原因となる。国は因果関係を否定しているが、開門して調査することには意味があろう。

 国が示した基金の額は100億円。しかしこれまで、それ以上の予算を投入しても再生には至っていない。漁業者は、国が基金で問題を終わりにしようとする姿勢を見透かしている。

 だれもが求めるのは、宝の海の再生だけだ。今回の和解協議では、高裁が示す方向性がどちらか一方に偏った内容なら、また決裂になるだろう。高裁には、漁業者も営農者も折り合える打開案を探す努力を望みたい。(横尾章)

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