〈堂塔建立の用材は木を買わず山を買え〉。法隆寺の棟梁(とうりょう)に伝わる口伝の一つである。〈木は生育の方位のままに使え〉というのもそうだ。昔の宮大工は木の選び方からして違う◆法隆寺専属の宮大工、西岡常一棟梁(1908~95年)の著書『木のいのち木のこころ 天』によれば、山の南側の木は細いが強い。北側は太いが柔らかい。陰で育った木は弱い。切った後も木の性質は残るから、山で木を見ながら建物のどこにどう使うか考えるのだという◆まさに適材適所。千年以上経てもなお、建築が今に残るゆえんだ。宮大工や左官などが受け継ぐ匠(たくみ)の技が、2年後の登録を目指すユネスコの無形文化遺産候補に、国の文化審議会で選定された。近く登録申請する◆寺社建築の宮大工、漆喰(しっくい)で壁を仕上げる左官、茅(かや)ぶきや檜皮(ひわだ)ぶきの屋根職人、手縫いの畳職人の技術が中心になる。伝統を守り抜く日本独特の高度な技。この素晴らしさを国内外にアピールし、技術継承の機運を高めることで後に続く職人が出てこよう。山の木と同じように人にも質(たち)があり、力を引き出す生かし方がある◆「技は人間の手から手に引き継がれてきた“手の記憶”なのです」とは西岡棟梁の言葉。そこには長年、受け継がれてきた心と知恵が織り込まれる。伝統を廃れさせずに未来へ―。今に生きる者の務めだ。(章)

このエントリーをはてなブックマークに追加