基金案の受け入れについて結論を持ち越した漁協の運営委員長・支所長会議。福岡高裁で和解協議が進んだ場合、再び判断を迫られることになる=2月9日、佐賀市の佐賀県有明海漁協本所

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の開門問題で、開門を前提としない国の100億円の漁業振興基金案への対応を巡り、佐賀県有明海漁協が混迷している。開門関連訴訟の当事者ではないものの、26日に結審する見通しの福岡高裁で優位に和解協議を進めたい国が基金案による解決を目指して働き掛けを強めていることが背景にある。福岡、熊本の各漁連が基金案に賛同して同調圧力も高まり、佐賀の漁協幹部は条件付き容認を検討する姿勢を見せたものの、被害が大きい佐賀県西南部地域が反発。訴訟の行方を見守るとして態度を保留し、視界不良の状態が続いている。 

 

■潮目

 「佐賀がある程度条件を認めてくれないと、和解協議には持ち込めないということだった」。1月20日に福岡県柳川市で開かれた有明海沿岸3県の漁業団体でつくる諫早湾干拓事業対策委員会。農水省幹部も出席し、約2時間に及んだ非公開での会議後、県有明海漁協の徳永重昭組合長は言葉少なに語った。

 漁協は2日前の運営委員長・支所長会議で、基金を使った排水ポンプ増設の拒否を決めたばかり。出席者によると、会議では佐賀の立場を訴えたが、100億円の基金案自体がなくなることを危惧する福岡、熊本両県からの風当たりは予想以上だった。「佐賀が責められているようだった」と漁協幹部。別の出席者も「あれで潮目が変わった。持ち帰って協議せざるを得なくなった」と振り返る。

 

■事情の変化

 国は昨年4月に開門しない方針を明確にし、基金による解決を目指している。ただ、100億円の基金案は2016年11月、長崎地裁での関連訴訟で提案され、福岡、熊本、長崎の3県側は受け入れたものの、佐賀県側が拒否した経緯がある。国が基金案受け入れへの働き掛けを強めたのは、福岡高裁で再び基金を前提とした和解協議に入るため、漁協の理解を得たという、前回との「事情の変化」を裁判所に訴えたかったとみられる。

 基金案による解決を譲らない国の要請を受け、漁協は排水ポンプの増設や小まめな排水の実施、有明海再生事業の継続の3点を条件に全15支所に受け入れを諮った。漁業不振が特に深刻な県西南部地区の漁協5支所は独自に会議を開き、「現時点では判断できない」と協議を継続する方針を決めた。国の関係者は「開門一辺倒だった漁協が協議をすること自体、事情の変化と言えるのでは」とみる。

 

■不快感

 「訴訟当事者ではない漁協に強引に介入する異常なやり方。極めて強い不快感を持っている」。一連の訴訟で開門を求めている漁業者弁護団の堀良一事務局長は国の動きを批判。国が有明海再生事業を予算化していることに絡み、「漁協側は事業に支障が生じるかもしれないと思うから言いたいことも言いにくい。国はそれにつけ込んでいる」と語気を強める。

 和解協議をにらんだ動きの中で、福岡、熊本漁連のトップが一時、県西南部地区の漁業者を直接説得する意向を示すなど、3県の温度差が浮き彫りになった。組合員に原告を抱える漁協大浦支所では23日に会議を開き、従来通り開門による原因究明を求める考えを確認している。開門派も、国も、裁判所も和解協議による合意が望ましいと考える点では一致しているが、依然として先行きは不透明なままだ。

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