幸せってなんだっけ? 私たちは「幸せのモデル」を失った時代を生きている。かつて信じられていた、いい大学に入って、一流企業に入れれば幸せをつかめるというモデルは、すっかり色あせてしまった◆その青年は、抱えてきた発泡スチロールの箱から、ルッコラや里芋を、ひとつひとつ大切そうに取り出した。それも「うやうやしく」と表現したくなるほどていねいに。2年前に佐賀市三瀬村に移り住んだ佐藤剛さん(34)は、農薬を使わずに自ら育てた野菜を、契約した個人宅に毎週届けている◆「この野菜は単なる商品じゃないんです。野菜を通じて人とつながる仕事がしたくて」。定期的に買ってくれる家庭は、佐賀と福岡に合わせて10世帯ほど。出荷できるリストをメールで送り、申し込みの分だけ収穫し、自ら配達に出向く◆愛媛県出身で、東京の有名私大を卒業し、大手銀行に入った。順風満帆だったが、「このままで幸せだろうか」と心をよぎる。縁あって出会った三瀬村の人々の暮らしに「大自然の中、プライベートと仕事の隔たりがない働き方。これだ、と」◆届けた野菜に「昔の野菜の濃い味がした」と感想をもらうことも。「家庭を持って、ここで子どもを育てたい」。佐藤さんと話していると、幸せを追う過程そのものが幸せなのかもしれない。そう思えてくる。(史)

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