今国会の目玉と位置付けられる重要政策が政府の信頼性を揺さぶり始めている。

 政府が3月上旬の国会提出と会期内成立を目指す働き方改革関連法案に盛り込まれる予定の裁量労働制拡大を巡って、厚生労働省が作成し提示した調査データに不適切な処理があったことが発覚した。安倍晋三首相が不適切データに基づいた答弁を撤回したが、新たな問題が相次いで明らかになり、野党は提出見送りなどを求めて追及を強めている。

 安倍首相は今国会成立の方針を崩さず、与党は働き方改革関連法案について閣議決定前に「厳正な法案審査を行う」と強調して防戦に必死だ。政府内では裁量労働制の適用拡大の施行日を1年遅らせる案を検討するなどしているが、問題は拙速な国会提出や会期内成立を防ぐことである。

 裁量労働制を拡大すれば結局は残業時間が増えるのではないか―。

 不適切に処理されていたのは、働き方関連法案の最大の論点を巡るデータだったのだ。首相の答弁撤回や与党の口約束だけで済まされるものではないだろう。

 問われているのは政府、与党の信頼性である。今国会成立というスケジュールにこだわっている場合ではない。厚労省から不適切データを示されてから3年間も問題を発見できなかった野党側にも責任はある。政府をチェックする国会、特に野党の力量も試されている。

 立憲民主、希望、民進、共産、自由、社民の6野党は23日、国会内で開いた自民、公明両党との幹事長・書記局長らによる会談で、データ問題を踏まえて、働き方改革関連法案の今国会提出見送りや労働時間の再調査を求めた。

 自民党の二階俊博幹事長は週明けに回答すると述べたほか、データ問題に誠実に対応するよう政府側に申し入れると答えた。一方、衆院予算委員会理事会は、裁量労働制の問題について審議するため安倍首相が出席する集中審議を26日午後に実施する日程で合意した。

 国会審議などを通じて解明しなければならないポイントの一つがデータの不適切処理が「故意」だったのか単なる「過失」だったのかだ。

 安倍首相は働き方改革を昨年の衆院選の公約に掲げていた。「安倍首相の意向を忖度(そんたく)して故意に捏造(ねつぞう)したのではないか」との野党側の指摘に対して政府は否定する。しかし、仮に過失だったにしても深刻な問題であることに変わりはない。他のデータにも同様の不適切処理が潜んでいる可能性が出てくるからだ。

 航空事故や労働災害対策で用いられる「ハインリッヒの法則」という経験則がある。1件の大事故の陰には29件の中規模の事故があり、さらにその奥には300件の小さな事故が隠れているという法則だ。

 今回の調査を巡っても、87事業所で117件の不適切処理が見つかったことが野党調査で分かり、加藤勝信厚労相が国会で陳謝。さらに厚労省は23日、少なくとも93事業所のデータに、精査が必要な不自然な数値があることを明らかにした。

 事態はハインリッヒの法則通りとも言えるような展開となっている。不適切処理がどこまで広がりがあるのかが見えていない。いったん立ち止まって全てを検証し直すことが政府、与党に求められている。(共同通信・柿崎明二)

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