手に提げているのはお肉屋さんで買った牛肉。「『100グラムください』とか、商店街ならではの頼み方が楽しい」と話す東成実さん

 印刷会社でウェブデザイナーとして働く東(ひがし)成実さん(22)=佐賀市=が、同市呉服元町に今も残る商店街「中央マーケット」周辺の写真を写真投稿サイトのインスタグラム(インスタ)で発信している。東さんがフィルムカメラで撮影した写真は、昭和にタイムスリップしたような味わいがあり、レトロスポットファンからも注目を浴びている。「今の中央マーケットを記録して伝えたい」と語る彼女の思いを聞いた。

 以前から古い建物が好きだった東さん。伊万里市から就職を機に佐賀市へ引っ越した。3年前に初めて中央マーケットを訪問、昭和の匂いを残す光景に衝撃を受けた。「身近にこんな所があるなんて!」と心を打たれたという。

今日のランチも記録。もちもちした皮まで絶品な人気店=佐賀市呉服元町のぎょうざ屋

 インスタに近辺の写真を投稿するようになったのは昨年11月から。昨年9月に閉鎖された寿通り商店街(佐賀市松原)の存在が大きいという。
 戦後すぐから続いていた長い歴史を持つ商店街が、重機によって一瞬で取り壊されていく。そのあっけなさを目にして、胸が締め付けられる思いだったという。そして、大好きな中央マーケットに関する本を出版することを思い付いた。
 もし将来、中央マーケットがなくなっても、「常連さんたちが卒業アルバムのように見て懐かしんでくれるようなものを作りたい」と東さん。「だから、物として手元に残る本にまとめたい。そして一番の願いはここがずっと続いてくれることなので、自分と同じように雰囲気のある町並みが好きな人に広く発信して、ファンを増やしたい」。そう考えて、「中央マーケット」というアカウント名で投稿を始めた。
 父から受け継いだフィルムカメラを手に、東さんは商店街の店を取材し始めた。東さんが撮影する写真はうち捨てられた自転車や古びた配電盤、おなじみの定食など、商店街でいつも見られる風景だ。淡く優しい色合いで、人が生きる“生活の匂い”がする。

かすれてめくれ上がった「中央マーケット」の文字が郷愁を誘う商店街入口(東成実さん撮影)

 インスタで発信することで、古い建造物や味のある写真が好きな全国の人ともつながった。東京の見知らぬユーザーから「行ってみたい」とメッセージが来たこともある。
 全盛期には50店舗近くが営業していた中央マーケットだが、現在開いている店は10店舗ぐらい。取材すると「常連客のために頑張りたい」「あの店が頑張っているから私も」という声に混じって、「後継者がいない。自分もどこまで頑張れるか」という不安を漏らす人もいた。「もうここは死に体。今さら発信してどうする」と怒鳴られたこともある。
 それら商店街を取り巻く人たちの思いをどう消化して表現するか、考え続けている。きれい事ではなく、本当に今ここで起こっていることを記録したい、と思った。
 「遠くに住む子どもの誕生日には、ここのお肉を送ってあげるの」と言う常連客。「待っていてくれるお客さんがいるから店を開ける」と語る店主たち。それぞれの思いや物語を知るほどに、「記録したい」という思いは強くなる。「将来ここが更地になるようなことがあっても、なかったことにはしたくない」と東さんは前を向き、中央マーケットに通い続けている。

長い年月の積み重ねが感じられる、カウンターから見える景色。ざらついた温かみもフィルム写真の特徴(東成実さん撮影)
「ここは配電盤マニアに人気のスポットです」と東さん。配電盤マニアとは?
 
 
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