高校の学習指導要領の改定案を文部科学省が公表した。改定はほぼ10年に1度で、2022年度から実施される。現在より「知識の理解の質をさらに高め、確かな学力を育成する」というが、履修内容は盛りだくさんで、果たして生徒たちはついていけるのか。

 今でも授業の準備時間が足りないと嘆く教員たちは「働き方改革」で労働時間が減っても、対応できるのだろうか。

 目玉の一つは選挙権年齢の18歳以上への引き下げを受け、政治参加や労働問題を扱う必修科目「公共」の新設。もう一つは昨年告示の小中学校の改定でも盛り込まれた、意見発表や討論を重視する「アクティブ・ラーニング」(主体的・対話的で深い学び)の導入だ。

 さらに、今回は「探究」がキーワードになっている。生徒が将来にわたって探究を深められるように、と大幅に再編された科目のあちこちに「探究」が埋め込まれた。

 教科横断的な「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変わり、自分で課題を見つけ、実社会で自在に活用できることを目指す。

 授業の大幅な改善が求められ、その結果がいずれ大学入試にも反映されることになる。

 実社会を探究するため、憲法改正や政治を巡る事件、政界再編など日々の政治課題も教材に議論を深める機会になるならいい。そんな意気込みで新科目「公共」に取り組む教員が偏向批判を受けないようにしてほしい。

 グローバル化し、人工知能(AI)の進化で変容する社会に対応できる人材を育てる必要性は理解できる。しかし、アクティブ・ラーニングを意識するあまり、議論に時間を割きすぎると、カリキュラムをこなしきれない懸念も生まれる。

 何より、目標が高いため、習得すべき内容は膨らんだ。例えば、高校卒業までに英語で扱う単語は約3千語だったのが4千~5千語に増える。

 成績上位の生徒は問題ない。経済的に厳しい家庭で学習環境が整わない生徒も少なくない中、ついていけない子を減らす配慮が不可欠だ。

 学習指導要領は「大綱的な基準」とされてきたが、今回は学び方や養うべき力がどんなものかといった細部にまで踏み込み、教科ごとの指導の目標を細かく記述した。

 高校教員は各教科の専門性が高い。運用に当たっては、学校を縛り付けず、子どもを一番よく分かっている現場の教員に裁量を与え、創意工夫に委ねるべきだ。そうでないと、国が理想とする画一的な教育を押し付けることになる。

 負担が増す教員への支援も忘れてはならない。必修科目「歴史総合」は日本史と世界史を合わせて近現代を教える新たな試みだ。その意義は評価できる。ただ、文科省指定の研究開発学校で実施されてきたというが、教員が大学で学んだ専門分野の違いで教え方に差が出ないようにしたい。

 教科の枠を超え、数学や理科の考え方を活用する選択科目「理数探究」は、重点的に理数教育をするスーパーサイエンスハイスクールで実績があるという。一般の高校でも対応できるよう手厚い教員の配置が望まれる。

 大幅な改定に際して混乱を抑えられるよう、教員には丁寧な説明と研修などの手厚い支援が必要だ。スムーズな移行のため、文科省はきめ細かな対応を尽くすべきだ。(共同通信・池谷孝司)

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