国営諫早湾干拓事業の開門調査を巡る訴訟の和解協議で国は、基金の規模を100億円とする最終案を示した。「漁業団体の求める取り組みを実現でき、政府内で調整した最大限の額」としており、10年で使い切る想定の事業メニューも合わせて公表した。

 「有明海振興基金」(仮称)は、長崎地裁で進む和解協議の柱で、開門しない代わりに有明海再生のための事業を行う。佐賀県や長崎県、福岡県、熊本県と漁業団体でつくる一般社団法人が管理・運営し、国は参加しない。

 果たしてこれで、有明海は再生するのだろうか。「100億円」という金額の大きさばかりに目を奪われるが、有明海再生という課題の難しさに比べれば、決して大きな額ではない。

 というのも、これまでに国は毎年、事業費ベースで約40億円規模を投じてきたからだ。その額は地元負担も合わせると、2014年までの10年間で430億円以上に達している。

 仮に、今回の国のシナリオに沿って100億円を使うとすれば、1年当たりは10億円にすぎない。しかも、有明海を再生できようが、できなかろうが、どちらにしても「積み増しはしない」のだという。

 国が示した事業メニューにしても、これまでに試してきた事業の延長にすぎず、目新しさはない。漁業者側弁護団が「有明海を再生できない『欠陥品』だ」と厳しく批判しているのも当然だろう。

 これでは、漁業者に開門をあきらめさせるための“手切れ金”でしかなく、あまりにも無責任ではないか。再生の見込みに乏しいのは明らかで、漁業者側が受け入れるのは難しい。山本有二農相も会見で「これから納得いただく手続きに入るが、困難は承知だ」と述べている。

 そもそも基金案は当初から事態打開に結びつかないのではないかと危ぶまれてきた。裁判所が示した案は「開門を前提としない」と結論ありきだったからだ。

 なぜ、開門調査だけを選択肢から除外したのか。福岡高裁の確定判決に従って、いったん開門して閉め切り堤防を築く前の状態に戻してみる。それで有明海異変のメカニズムを探ろうというのは理にかなっているはずだ。すでに干拓地に入っている営農者の農業への影響にしても、塩害を防ぐ対策は可能だろう。

 開門を命じる判決と、開門してはならないという二つの司法判断に板挟みで動けないと国は主張し続けてきたが、それにしても福岡高裁が命じた開門判決が確定したのは6年も前の話だ。確定判決を放置し続けた結果、袋小路に陥ったのは、ひとえに国の不作為が原因である。

 有明海異変が続く。有明海特産のタイラギ漁は今シーズンも再開はかなわず、5年連続の休漁が決まった。ナルトビエイの食害が指摘されているが、まともな成貝が一つも見つからなかったからだ。これ以上、先送りされれば、完全に死滅してしまうのではないかという不安が高まる。

 12日の和解協議では、基金案が正式に示されるが、手詰まりは明らかだろう。もう一度、福岡高裁判決の原点に立ち返って、どうすれば開門できるか、裁判所と国は方針転換すべきだ。(古賀史生)

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