その青年は、遊び場がない子どもたちのために公園を造り、まじめに働いてきた貧しい老人に旅行をプレゼントする。ショート・ショートの名手だった小説家、星新一の『なぞの青年』の主人公は、困っている人々から大いに感謝されるが、その金の出どころは謎のまま◆実は彼は、税務署の職員で、多額の使い込みに気づいた上司は「きみをまじめな青年と信用し、金銭を扱う重要な地位につけた。それなのに」と責め立てる。「けしからん、税金とは善良な国民が、政府を信頼して納めたものだ。勝手にそんなばかげたことに使うとは…」◆確定申告の季節がやってきた。税務署の窓口はごった返しているが、職員たちは針のむしろに違いない。国税庁トップが理財局長時代にやった国会答弁が、いかにもうさんくさいからだ。国有地を格安で売り飛ばしておいて「記録は破棄した」と言い張ったが、ここにきて資料が次々出てきた◆こと細かに記録を求められる納税者から不満が噴き出すのも当然だろう。「即刻辞めろ」「納税者一揆だ」とデモまで起きている。記者会見からも逃げ回っているが、こんなトップを担がねばならない職員たちが気の毒である◆ショート・ショートのラストで青年は問う。「わたしが異常で、ほかの議員や公務員たちは、みな正気だとおっしゃるのですか」と。(史)

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