古くから、見えない力は信じられてきた。天文道や占いに通じ活躍した「陰陽師(おんみょうじ)」。朝廷や貴族たちが信奉する。その世界を描いた映画「陰陽師」(2001年)では、希代の陰陽師、安倍清明(あべのせいめい)が手腕を振るう◆狂言師の野村萬斎さん演じる清明が、平安時代の京の都で、人間の邪悪な心が成す怪奇現象と対峙(たいじ)し解決していく。まさに妖しく、幻想的な世界だ。神通力を発揮する清明。その全能の力への希求からか、フリーに映画の劇中曲をアレンジした「SEIMEI」を使った◆フィギュアスケートの羽生結弦選手である。平昌五輪で2大会連続の金メダルに輝いた。過去に、世界最高得点を出した験がいい曲。和笛や和太鼓の音色が演技を引き締め、2種類の4回転で宙に舞い、観客のため息を誘った◆昨年11月に右足首を痛め、練習から遠ざかる。胸をかきむしり、落ちたことのない底にいたことだろう。だが、彼の発した言葉通り「誰よりも強い気持ちを持って」しっかりとメダルをつかんだ。試合後の涙に、見る側も目頭を熱くした。宇野昌磨選手も「銀」をもぎとり、日本勢として文句なしの結末である◆アスリートには、見えない力が働く瞬間があるのかもしれない。もちろん努力に裏打ちされたものだが、苦難を耐え抜いた羽生に、リンクの神様も王者のご褒美を贈ったようだ。(章)

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