黒田東彦日銀総裁の再任が確実になった。物価上昇率2%を目指す大規模な金融緩和政策は継続するのだろう。任期の5年を超えて務めるのは異例だが、デフレ脱却を目指す金融政策は胸突き八丁に差し掛かっている。トップ交代による混乱は好ましくなく、妥当な人事だと評価したい。

 世界経済は今年に入り一変。金融市場で動揺が続いている。黒田氏には、なおいっそう細心の注意を払った政策運営を求めたい。説明責任を果たし、市場との丁寧な対話を心がけてほしい。

 一方、2%目標は達成が見通せないままだ。副作用も目立ってきた。だが物価上昇率は1%をうかがい、少なくとも、物価下落が続き、実体経済にも下押し圧力がかかるデフレスパイラルではない。こうした状況を考えるならば、政策目標の根幹は維持しつつも、一定の調整はあり得るのではないか。2%目標はそのまま掲げ続けるのがいいのか、これまでの政策効果や世界経済の現状なども踏まえ検証してみてもいいだろう。

 世界経済の安定を脅かしているのは米国のインフレ圧力だ。長期金利が急上昇、株価が急落するなど不安定な動きが続いている。米国は大規模減税に加え巨額のインフラ投資も実施する。この資金繰りのため国債が増発される一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は金融緩和策の出口に向け国債買い入れを減らしている。国債消化が滞れば金利が跳ね上がる恐れもある。景気の過熱に対しFRBが利上げを加速すれば、日米金利差が拡大、株価、為替にも大きな影響が出る。

 2008年のリーマン・ショック以降、日米欧の中央銀行が行った金融緩和による低金利下で続いてきた、インフレを起こすほど過熱せず、不況に陥るほど冷え込みもしない「適温経済」の終了を予想する専門家も多い。足元では円高も加速。米国が利上げを加速するとの観測から投資家が「安全資産」とされる円に資金を移動している。輸出企業の採算が悪化するとの見方から株価も下降傾向をたどり始めた。

 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」の中核は、円安と株高による企業業績向上だ。この二つが失われれば、日本経済は突っかい棒を外されたも同然になる。本来なら、景気減速に備え利下げなど政策手段を確保すべきだが、金融緩和の拡大を続けてきた日銀には残された手段はほとんどない。

 一方、黒田氏が総裁に就任した13年に、2年間で達成すると公約した物価上昇率2%達成はその後、6回も延期され、いまだにゼロ%台にとどまっている。この間、政策目標を国債買い入れ額から長短金利に変更、民間銀行が日銀に預ける預金にマイナス金利を導入した。上場投資信託(ETF)も大量に購入し続けている。

 低金利よる運用難で金融機関の経営が圧迫され、金融システムが日銀の意図とは逆に不安定になり財政規律の緩みも顕在化している。黒田氏は緩和策を終了する「出口」については「時期尚早」と繰り返す。しかし米欧の金融政策が正常化に向かう中、日本だけが緩和を続ければ、市場のひずみは大きくなる。緩和縮小を疑い疑心暗鬼になっている市場をなだめ、より妥当な方向に軟着陸させることも、中銀総裁にしかできない仕事だ。(共同通信・高山一郎)

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