永尾忠博さん

■「地域移行」歩み地道に

 県知的障害者福祉協会会長 永尾忠博さん(64)

 ◆相模原市の知的障害者施設で入所者19人が殺害された事件から4カ月が過ぎた。「障害者は生きていても意味がない」という容疑者のゆがんだ考えが、今なお波紋を広げている。

 障害者への差別と憎悪に満ちた主張を断じて許すことはできない。私が40年間、接してきた人たちは重度であってもそれぞれに感情や個性があり、懸命に生きる姿からはこちらが教えられることも多い。

 憂慮するのは、容疑者の考えに共感する意見がインターネット上に見られることだ。社会に広く浸透しているとは思わないが、犠牲を二度と繰り返さないためにも、出どころや社会的背景を解明し、差別の芽を摘まないといけない。

 ◆容疑者の精神疾患の既往歴が強調されることで、患者やその家族は、精神障害者への偏見や差別が広がらないか不安を抱いている。

 事件後、治安の面から障害者の行動管理や防犯対策の強化を求める意見があるが、職員からは「いまさら鍵を付けたり塀を造ったりしたら、障害者の自立と社会参加を進める地域移行の流れに逆行する」と反対する声が上がっている。

 1993年に障害者基本法が制定されて以降、障害の有無にかかわらず、地域で支え合って生き生きと暮らす「ノーマライゼーション」の取り組みは、少しずつでも着実に進んでいる。事件はショッキングではあったが、障害者のためにも地域と切り離すような対策を取ってはいけない。

 とは言っても、事件で浮き彫りになった精神障害者の社会復帰に関わる問題は、きちんと手を打たないといけない。容疑者は自身や他人を傷つける恐れから措置入院になっていたが、解除されて社会に戻った後の行動をどこも把握していなかった。容疑者の人権や個人情報に配慮した結果だが、今回のような事件が起きれば、逆に精神障害者への偏見を増大させてしまう。医療や福祉、行政が連携した見守りの仕組みづくりを急がないといけない。

 ◆障害者自身や家族の中には、周囲の偏見にさらされることを恐れ、社会とのつながりを避ける人もいる。今回の事件で、犠牲者の名前の公表を遺族が拒んだのも心情は似通っているのかもしれない。

 住宅地にグループホームを新設した7年前、周辺住民の反対に遭った。理由は障害者への無理解からくるものばかりで、何度も説明に足を運び、「もしトラブルがあれば、施設側が一切の責任を負う」という覚書を交わして建設にこぎ着けた。2年後、同じ施設を隣に建てた際、拍子抜けするほど異論は出なかった。障害者のことを知れば、偏見はなくなると実感した。

 障害者が地域で生き生きと暮らせる社会を実現したいが、社会の側に多くの障壁があり、一気に取り払うことができない。地域移行の鍵を握る就労支援を巡っても、雇う企業を増やし、最低賃金が守られるようにして、働きやすい環境をつくってと、一つずつクリアしている。大切なのは、この歩みを止めないこと。地道にこつこつとやりながら、社会の理解を深めていくしかない。

2016 人権週間企画

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