安倍晋三首相が「労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革」と胸を張る働き方改革関連法案を巡り、与野党が火花を散らせている。政府は残業時間の規制とともに、年収の高い一部専門職を労働時間規制の対象から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)導入や裁量労働制拡大などを盛り込んだ8法案を一本化して今国会に提出する。

 首相は「過労死や過労自殺の悲劇を二度と繰り返さない強い決意で取り組む」と強調するが、労働時間規制の強化と緩和の抱き合わせに野党は「禍根を残す」「過労死の合法化だ」と反発し、高プロなどの撤回を訴えている。月内とみられる法案提出を挟み、対決は熱を帯びていくだろう。

 そんな中、残業規制を先延ばしにする動きもあり、労働組合などに波紋が広がっている。また厚生労働省の協議会では過労死遺族から、長時間労働だけでなく、パワーハラスメントや深夜勤務も過重労働の要因になっているとして、過労死等防止対策推進法に解消への取り組みを盛り込むよう求める声が上がるなど、改革の行方を見守る働く側の懸念は尽きない。

 「多様な働き方」という看板が掲げられ、慢性的な人手不足にさらされる働かせる側の意向が随所にちりばめられる一方で、働く側が置き去りにされつつあるという見方は根強い。誰のための改革なのか。国会論戦では、そこに立ち返り、議論を尽くす必要がある。

 少子高齢化で労働人口の減少が止まらない。罰則付きの残業規制で長時間労働を是正すれば、仕事と家庭の両立が可能になり、女性は就労しやすくなる。高齢者も働きやすい。さらに「同一労働同一賃金」によりパートや契約社員など非正規の待遇改善を図り、生産性の向上、ひいては経済成長につなげていく。改革の向こうに、政府はそんな絵を描いてみせる。

 ただ高プロ導入で、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発職などは残業規制から外れる。休日取得といった健康確保措置が設けられるが、野党は「残業代ゼロ法案」と反対する。加藤勝信厚労相は先に国会で「年収1千万円以上は給与所得者の3%程度。管理職を除き、業務も絞られるので、さらに限定される」と説明した。

 実際に働いた時間ではなく、あらかじめ決められた時間に基づいて賃金を払う裁量労働制の対象業種拡大がもう一つの緩和の柱だ。どれくらいの人が影響を受けるか、まだはっきりしない。いずれも「時間によらず、成果で評価する制度」と説明されるが、企業にとっては、賃金を抑えて、長時間働かせることができる仕組みともいえる。

 将来的に、こうした仕組みが拡大される可能性も指摘される。しかも2月に入ると、残業規制について厚労省は中小企業に限り、適用を1年延期する修正案を自民党に提示した。同一労働同一賃金や、中小企業の残業代割増率引き上げも遅らせる。「人手不足に残業規制が重なると、労働力が確保できなくなる」という中小企業の窮状に配慮したとしているが、そこで働く人たちの期待は裏切られた形になった。

 全体として見ると、どこまで働く人のための改革となるか、不透明になりつつあると言わざるを得ない。改革の実効性を確保するために何ができるかを、しっかり議論することが求められる。(共同通信・堤秀司)

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