庶民に温かい目を注ぎ、ひたむきに生きる人々を文学で励ました作家、山本周五郎(1903~67年)。あすは命日である。名作は数多いが、『さぶ』は忘れられない小説だ◆主人公の栄二は無実の罪を着せられ自暴自棄になる。しかし友人のさぶは彼に寄り添い続ける。「栄さん、一人ぼっちっていうのは間違いじゃないか」「おまえさんは決して一人ぼっちじゃあなかった」。周囲は栄二にさぶの存在を指して諭す。人は周りに支えられて生きている―。小説のメッセージだ◆国と国の関係もそうあってこそ固い絆となる。同盟関係であれば時に助け合い、励まし戒める。だが今の日本と米国の蜜月ぶりにどうも納得がいかない。トランプ政権の新しい核政策指針のことである。小型の核兵器なら使うことができるとの姿勢を示し、日本はもろ手を挙げて賛成した◆平昌五輪をかき回し、何かとお騒がせの北朝鮮も意識してのことだろうが、小さくても核は核。その使用のハードルが下がるのを危ぶむ。被爆国でもあり盟友だからこそ、もの申す努力もせねば◆栄二はさぶを尊敬しているからこそ己を律する。試練から脱した時、「有難(ありがと)うよ、さぶ。本当に有難う」と感謝する。友人の心と目が、片時も離れないと信じたからこそ、間違いを起こさない。本当の連帯とはそういうものだろう。(章)

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