学力の底力アップに有明抄を活用している「渕上塾」の渕上れい子塾長=唐津市北波多

「起承転結が難しい。有明抄は参考になる」と書き写す山口多喜子さん=佐賀市昭栄町

「毎日の楽しみ」とほほ笑む山口松枝さん=佐賀市長瀬町の有料老人ホームながせ

「書き写しノートがいまの生きがい」と話す納富茂子さん=神埼市神埼町

 佐賀新聞1面のコラム「有明抄」を書き写すノートが評判を呼んでいる。継続することで“脳トレ効果”が期待でき、高齢者は日々の楽しみに、子どもたちは理解力や語彙(ごい)力、表現力など多様な面で日本語を使う能力の向上につながっている。家庭や学習塾での活用事例を紹介する。

宿題で知らない間に底力

学習塾「渕上塾」(唐津市北波多)塾長・渕上れい子さん

 小学6年生から高校3年生までが通う唐津市北波多の学習塾「渕上塾」。中学3年生の宿題に書き写しノートを使っている。「うちは中間や期末など目先のテストのための勉強はさせません。だから入試の前日まで書き写させてます」と塾長の渕上れい子さん。知らないうちに底力が付く栄養剤のような教材として有明抄を活用している。

 ノートが販売される前から15年ほど取り組んでいる。週2回、渕上さんが選んだ有明抄のコピーを生徒が持ち帰る。生徒が付けたタイトルで読解力を測り、10点満点で採点。「重視しているのは感想。書いてある言葉を使わないように指導し、力がない子もだんだんうまくなっていく」と目を細める。

 宿題で与えるのは、時事問題をテーマにした直近の有明抄もあれば、中身が色あせないかつての有明抄もある。クリップで12カ月ごとにまとめた切り抜きの束には、10年ほど前のものもある。

 渕上さんはもともと英語が専門。「英語を教えていても、日本語の理解力がないと壁にぶち当たる」と読み書きの重要性を知る。取り組んだ生徒にはニュースを見て、社会に関心を持つ変化も見られるという。「大学入試には小論文があり、高校生が『やっててよかった』って言うんですよ」

 

もうすぐ100冊「生きがい」

納富茂子さん(89)=神埼市

 「書き始めるとやめられない。いまの生きがい」。神埼市神埼町本堀の納富茂子さん(89)は笑顔で語った。「書き写すことで文章がうまくなるんじゃないかな」。97冊目にさしかかっても、納富さんの向上心が衰えることはない。

 納富さんが書き写しノートを始めたのは4年ほど前。「ずっと読んではいたけど、すぐに内容を忘れてしまう。いいことが書いてあるので書き残してみよう」と思ったのがきっかけだった。子どもの就職を機に、朝の散歩を始め、いまではその散歩後に記すことが日課となっているという。

 1928年(昭和3年)生まれで「戦争中をよう生きてきたもんよ」と納富さん。「当時は勉強もろくにできず、学ぶことに飢えていた」と振り返る。だからこそ「自分で学ぶために何かしなければ」と継続している。

 「書くことで少しで字が上手になれば」とモチベーションも高い。短歌が趣味で「中には珍しい漢字もあって生かせている」と喜ぶ。ペンを持つと「筆者がどんな人なのかと想像しながら書き写している」。いま手元には購入している15冊が残っていて「書くのが楽しみ」と高揚感は止まらない。

 

気分と体調の指標

冨岡英子さん(79)=武雄市

 「以前のノートをめくってみると、その時の気分や体調が分かる。字が乱れていたら『ちょっときつかったのかなぁ』っていう感じでね」。武雄市山内町鳥海の冨岡英子さん(79)は、22冊目に入ったノートを並べて笑顔をみせた。

 「毎日読むだけでなく、書いてみようかな」と、2014年7月から書き写しを始めた。「真剣に文字を書くのは、会社勤めをしていたころ以来だったから20年ぶりだった。はじめはきつかった」と振り返る。始めたころは40分ほどかかっていたが、今は30分ほどで仕上げる。

 体調が優れない時以外は、空き時間を使って毎日シャープペンシルを走らせる。「漢字は大きく、かなは小さく書いてみよう」など、時々で気分を変える工夫もしている。

 「内容が頭に入りやすい時はペンも進む。逆に難しい時は字も乱れる」と言う。字が乱れた時は、最後の数行だけでも「ぴしっと」締めようと、気合を入れ直す。「見出しをつけるのが難しい」と笑った。

「新聞はよかお友達」

山口松枝さん(95)=佐賀市

 毎朝5時に起床し、切り抜きセットと文字を読む虫眼鏡を手に、書き写しノートを開く。有明抄とすべての紙面に目を通してから、約1時間かけて文字にしていく。山口松枝さん(95)は「新聞はよかお友達ね」と笑顔を見せる。

 佐賀市内の老人ホームに入所が決まったころ、有明抄ノートの告知を偶然見つけて購入したのが始まりだった。それから5年間、1日も休まずに書き写しを続けている。ノートの裏には「肩が少し痛かったが、よくやった」「寒さに負けずに頑張るぞ。ヤッホー」と自身を励ます言葉が並ぶ。「とにかく書くのが楽しい。自然と朝も起きれる」と生活のリズムになっている。

 書き写しとともに、記事の切り抜きも日課になった。気になるのは、政治家の言葉を紹介する「片言政句」や地域に関する話題。新聞記事を読んで、自分の考えを巡らせる時間が格別だという。「何かに役立つわけじゃないけどね。ただ自分の中で考える。昔のことば思い出したり、楽しいね」とほほ笑む。

 

「文章うまくなりたくて」

山口多喜子さん(87)=佐賀市

 「教師だったけど文章を書くのは苦手でね。文章がうまくなりたくて」。67年前に福岡県から嫁いできた佐賀市昭栄町の山口多喜子さん(87)は結婚前、中学校で国語の教師を務めていた。有明抄の書き写しを始めたのは60歳を越えてから。専用ノートに書き写す前から大学ノートや広告チラシの裏などに書いており、今では30冊以上に上る。

 毎朝、ベッドで新聞を読むのが日課。その後、机に向かい文章を書き写し、分からない言葉や漢字は辞書で調べる。63歳から2年間、高齢者大学「平松清風大学」に通った。文集を書く機会もあり、「特別意識をした訳ではないけど(書き写しの)効果があったのでは」と振り返る。

 近所付き合いも密にしており、近所に住む友人にノートを分けてあげることも。時折、友人と「今日の有明抄は良かったね」と会話に花を咲かせるという。

 これまで書きためたノートを見て「いつの間にかこんなにたくさん」と目を細める山口さん。「まだまだ文章の書き方を学びたい」と意欲を燃やす。

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