「葉隠の言葉を未来のヒントに」。今年、県庁の仕事始め式での、山口祥義知事の言葉である。「葉隠みらい館」がお目見えする、3月17日開幕の「肥前さが幕末維新博覧会」。より葉隠を身近に感じられそうだ◆18年も前になるが、作家の大江健三郎さんが佐賀市で講演し、中学の時に読んだ葉隠の本の話になった。父親が持っていたという。「有効な侍というものは、藩に対して反抗する力、もの申す気概を持たないといけないというくだりがある」◆大江少年の琴線に触れたようだ。「とてもいい。そういう人間になりたいと思った」と続けた。大江さんは、仕える身であっても権力に対し、信念に基づき、怯(ひる)まず異を唱える大事さを思ったのだろう。「奉公の至極の忠節は、主に諫言(かんげん)して国家を治むる事なり」というのが、そのくだりだ◆そう語った山本常朝自身、諫言するため家老にならなければと考え、奉公する。むろん名利や私欲からではない。でも、とうとう家老になることはなかった。血涙は出なくても、黄色い涙ぐらいは出たというほど頑張ったと言うが…◆大江さんは、葉隠で自分が感銘を受けたところを、思想史家の丸山真男も論文で引用していたとも語っていた。戦後を代表する進歩的な知性の人をも魅了する―。さまざまな読まれ方をした葉隠だが、その深さを思う。(章)

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