米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設工事が進む名護市の市長選は、移設を進める安倍政権が支援した元市議の渡具知武豊氏が、基地反対を訴え、翁長雄志知事や野党各党が支援した現職の稲嶺進氏を破った。

 安倍政権は基地移設への地元の賛同が得られたとして名護市辺野古での工事を加速させる構えだ。安倍晋三首相は「市民の理解をいただきながら進めたい」と強調した。

 しかし当選した渡具知氏は選挙戦では基地移設への賛否を明確にせず、教育や福祉の充実、地域産業の振興を前面に政府との対話を掲げた。応援に入った自民、公明両党幹部も移設問題に言及せず、争点化を回避した。

 共同通信社の出口調査では、渡具知氏に投票した人の3割超が移設に「反対」と回答。渡具知氏も当選後、政府との関係について「市民と認識に乖離(かいり)がある。一定の距離を置かなければいけない」と述べ、反対派への配慮が必要と言明した。選挙結果を移設容認と受け取るのは早計だろう。

 移設工事を強引に進めれば、地元や沖縄県と政府との亀裂をさらに深め、禍根を残すことになる。対話を選択した複雑な民意に真摯(しんし)に向き合う姿勢を政府に求めたい。

 移設反対派にとっては、運動の再構築が迫られる結果となった。保守と革新の対立を超えた「オール沖縄」の枠組みで反対を訴えてきた翁長知事の求心力の低下は必至で、秋の知事選に向けて厳しい立場に立たされよう。

 それにしても異様な選挙戦だった。人口約6万3千人の市長選に、告示前から与党幹部や閣僚が次々と入り、反対派も野党幹部らが押しかけた。国の安全保障政策に関わる選挙のためだが、それならば政府、与党は安保政策上の基地移設の必要性を真正面から訴えるべきだったのではないか。

 辺野古移設計画が浮上して以来、20年以上、名護市では市長選や住民投票のたびに市民を二分する選択を迫られてきた。政府は昨年4月に埋め立て区域の護岸工事に着手し、沖縄県は工事差し止めを求め提訴したが、工事は進められている。市民からは「市長が誰でも止めることはできない」と諦めの声も聞こえた。

 稲嶺市長時代、米軍再編に協力する自治体に支給される再編交付金はストップされた。これに対して渡具知氏は交付金を受けると明言。昨年末に名護入りした菅義偉官房長官は「政府として生活環境や地域振興に配慮する」と強調した。前回自主投票の公明党は、県本部が移設反対の立場を崩さないまま渡具知氏推薦に回り、基地問題に触れない方針が徹底された。

 政府、与党が強大な権限と財源を背景に選挙戦に関与し、政権中央の連立関係重視の対応が持ち込まれた構図だ。地域の民主主義の在り方として強い疑問が残る。

 防衛省によると在日米軍機の事故・トラブルは2017年に25件と前年から倍増した。沖縄では1月だけでヘリの不時着が3回も発生している。首相は辺野古移設で「安全性が格段に向上する」と強調するが、事故は県内各地で起きており、県内移設では解決しない。

 首相は2日の衆院予算委員会で、米軍専用施設の約7割が沖縄に集中する理由の一つとして「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。沖縄に負担を押し付けている責任を本土の側が真剣に考えるべきだ。(共同通信・川上高志)

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